悲しみに寄り添う言葉
〈評者〉斉藤善樹
本書の原題は“Experiencing Grief”、訳すと「悲しみを経験する」です。その題の通り、著者のライト氏は私たちの悲しみの経験を具体的に描写しています。多くの読者は自分のことが書かれていると感じるのではないでしょうか。人生で時に経験する深い悲しみは回復するのに長い時間を要することです。特に本書は愛する人を失う悲しみに焦点を当てています。著者自身が自分の子を失っており、また翻訳者の前島常郎氏は「訳者あとがき」でご長女を自死で亡くされていることを記しています。
本書は新書版で全編135ページという小さな本であり、内容は二五章に分けられています。著者はそれぞれの章を通して、悲しみの経験のポイントを細かく描きます。例えば、このような章の題名があります。括弧は評者の注釈です。「痛みと否認(現実を避けます)」、「なぜ悲しむのか(悲しみは目的を持っています)」、「答えを求める叫び(しばしば何故?と誰彼構わず問いかけますが、答えが得られなくても前進できると著者は言います)」、「自責の念(相手の死についての後悔」、「口にしにくい感情(自分にとって大きな負担でもあった人の死は安堵を伴うこともあります。受け入れましょう。)」、「怒り(悲しみや痛みとの反応として現れますが、怒りの対象は神のみにすべきです!)」、「複雑な死因(急な事故死、犯罪による死、自死などはその苦しみを二重三重にします)などですが、ほとんどの章は2~4ページの構成で読むのに負担にならない量です。
悲しみの感情は、ごく自然に起こるものであり、読者は自分が悲しみのプロセスにあり、それが異常な経験ではないこと、悲しみのプロセスは、また回復へのプロセスだという事を知ります。一日に一章ずつ、ゆっくりお読みなったらと思います。前述したようにあたかも自分自身のことが書かれているようで、また著者や訳者の経験の追体験をするようで「わかる!わかる!」という気持ちをもって読み進めると思います。
繰り返しますが、自分の経験が異常ではないこと、泣いて一日を過ごすことが恥ずかしいことではないこと、やっと元気になったと思っていた矢先に突然襲ってくる心の痛みは起こりうることです。悲しみには波があり、いつかは回復して日常の生活が送れるようになることでしょう。著者は、悲しみにある人が通るであろう道筋を順を追うように書いていますが、読者は関心のあるものから読まれたら良いと思います。22章以降は結びの部分です。意味深いアドバイスが述べられ、悲しみに別れをつげることを著者は助言します。そこまでたどり着くのに2、3年はかかるので、気を急く必要はありません。悲しみに別れを告げるとは愛する人を忘れることでは決してありません。その人との関係が無くなることでも、その人への愛情が薄くなるということでもありません。今まで悲しみに費やしてきたエネルギーを今、別のものへのエネルギーへと転換させていくことです。すべてがもとに戻るということでもありません。喪失と共に新しい生き方を学ぶ時であり、新しい生活が始まる時なのです。本書は悲しみの中にある読者に寄り添うものとなることでしょう。













