今日こそは、残りの人生、最初の日
〈評者〉上林順一郎
書名冒頭の「生涯現役が贈る」の言葉にまずショック。著者の島田恒さんは現在85歳、そしてバリバリの現役、一方、評者はひとつ歳下の現在は日本基督教団の「隠退牧師」、言葉通り「退いて隠れている」日々、この違いはどこから来るのだろうか?
島田恒さんは兵庫県生まれ、大学卒業後企業に就職、営業畑での「会社人間」の道を歩みます。しかし単なる「会社人間」でなく、生きていくことの「原理原則」を求めて大学院聴講、学会への参加、アメリカ研修旅行など多様な経験をもとに最初の著書『日本的経営の再出発』(同友館)を刊行。さらに『NPOという生き方』(PHP新書)を世に問いベストセラーに。先年出版した『教会のマネジメント〜明日をつくる知恵』(島田恒、濱野道雄共著 キリスト新聞社)は日本の教会の明日への示唆に富んだ提言です。教会にマネジメントなど不要と考えの牧師方、ぜひ一読を!
島田さんは「経営学」の研究だけでなく、実践と合わせて教育する仕事への思いが募り退社、独立。毎年、東京と大阪でセミナーを開講し「人生二毛作」を実践します。明るい人柄と豊富な話題、巧みな話しぶりで会場はいつも満席。そうした活動と経験により大学教員の道が開かれ、その分野ではまだ研究者の少なかった「非営利組織論」をテーマに経営学博士号を得る。同時に実践的な課題として「キリスト教系非営利組織」にかかわり、そのマネジメントに貢献します。
本論の第二章では社会を四つの働き「経済、政治、文化、共同」で構成されていると分析し、それぞれの特徴を明示します。特に「共同」の特徴として「共生と絆の原則(人間や社会のつながり)」を強調し、「日本的経済の現場から〜居酒屋を覗く」(47頁以下)は意表かつ実践的提言で、「隠退」牧師のミッションとする「居酒屋伝道」とも重なり、おおいに共感!
第三章では「非営利組織」の重要性をドラッカーなどに学び、実戦的経験を経て深めてきた非営利組織の核心を「ミッション(使命)」と「人間のつながり」に求め、著者が長年関わってきたYMCA、日本キリスト教海外医療協力会、淀川キリスト教病院、中村哲医師の働きなどの事例を紹介しつつ、非営利組織のミッションの問題の核心に迫っていきます。
非営利組織はしばしば人間の「善意」によって成り立ち運営されてきたこともあり、それが時には組織や運営を不明瞭にし、自己満足に陥りがちな傾向にあるが、著者は「非営利組織は目に見えるものを超えて価値軸(ミッション)を持つこと、また人間のつながりを大切にするように、それは個人の豊かな生き方に重ね合わせることができる」と主張します。そのために一人ひとりが持つべき「タテ軸」と「ヨコ軸」を図示し、著者の「タテ軸」であるキリスト教の位置づけを強調、さらに生きている限り誰もが「現役」で「余生」などないと叱咤(?)、実践を提言します。
「隠退」牧師から、いまや「隠居」牧師へと後退している日々、「今日こそは 残りの人生 最初の日」(166頁)の言葉に触発され、残り少ない人生「今日こそは、現役!」と、心に言い聞かせる毎日です。感謝!