数多くの外国語で著された書物が出版されているが、邦訳のタイトルは商業的な理由から、実際のタイトルとは違うことがあるのはよく知られていることだが、『人生後半の戦略書』(SBクリエイティブ)もその一つだろう。原題は「From Strengthto Strength」で、本書の見開きには詩編84編6〜8節が引用され、そのタイトルは8節の「彼らは力から力へと進み」から取られている。ちなみに、副題(原題)は、「人生の後半で成功、幸せ、意味深い目的を見出す」である。
今年(2025年)の5月、今回本書を取り上げた理由でもあるのだが、ロンドンで開かれた国際大会で、著者アーサー・C・ブルックス(ハーバード大学教授)の講演を聞く機会に恵まれた。第7章「林住期に入る 信仰心を深める」の中で、彼自身のキリスト教信仰について記しているが、その講演でも彼が自らの神との関係について大胆に証しする姿は強烈な印象として残っている。
同じ章で、個人的にいつかはチャレンジしたいと憧れているサンティアゴ・デ・コンポステーラについても述べられているが、巡礼がもたらす効果について語る中で、神学者、小山晃佑の『助産婦は神を畏れていたので』(同心社)からの一文を引用されている。それはいまだに速さが強調され、評価される中に日々を歩む私たちが忘れてはならないものだと思う。「時速3マイル、私たちの歩行速度であり、故に神の愛の歩行速度であります」
「力から力へと進み」続けるためには、「削る」ことが必要だと本書は論じている。つまり、「死ぬまで足し算を続ける生き方をやめる」ことである。まさに「ぶどうの木」である主イエスが「実を結ぶ者はみな、もっと豊かに実を結ぶように手入れをなさる」(ヨハネによる福音書15章2節)ことが示されているのだ。
(ながい・のぶよし=東北中央教会牧師、拡大宣教学院学院長)