使徒信条は聖書全体の要約 体に深く染み込むまで味わおう
〈評者〉松本雅弘
>説教黙想アレテイア叢書
三要文 深読 使徒信条
平野克己、小泉健、吉田隆、荒瀬牧彦、安井聖ほか著
A5判・216頁・定価2640円・日本キリスト教団出版局
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昨年11月、私が仕える教会の中会総会にゲストとして来られた先生が「いまや日本の教会は停滞期から衰退期に突入した」と語られ衝撃を受けました。その背景の一つとしての「コロナ」が私たち教会に与えた影響の大きさに改めて向き合わされました。
「神よ、変えることができるものについて、それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。変えることのできないものについては、それを受け入れるだけの冷静さを与えたまえ。そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを、識別する知恵を与えたまえ」。これは、「ウィズ・コロナ」と呼ばれる日常を歩む中つねに私の心の中にある祈りとなっています。まさに、このようなタイミングで、本書、『三要文 深読 使徒信条』を手にしました。
本書は、『説教黙想アレテイア叢書』として新しく刊行されたシリーズの2冊目、「使徒信条をめぐる黙想集」です。「深読」と名付けられたタイトルに心惹かれます。その意味を説き明かす平野克己氏による「使徒信条 深読のすすめ」から始まり、「序論」を経て22に分けての使徒信条の「黙想集」となっています。
「使徒信条は、聖書全体の要約です。聖書の第1ページは天地創造から始まります。最終ページは、主イエス・キリストが再び来てくださることで世界が完成されることを約束し、この世界への祝福の言葉で終わります。天地創造から世界の完成まで、私たちの短い人生を超えた、実に壮大な神の物語の中に、私たちは『我は信ず』と語りつつ足を踏み入れます」(本書5~6ページ)と、使徒信条の何たるかが語られていましたが、こうした使徒信条でもあるからこそ、「変えることのできるものと、変えることのできないものとを識別する知恵」をいただく意味でも、本書の出版は今の日本のキリスト教会にとって実にタイムリーだと思います。
一昨年、半年余りをかけ使徒信条を説教した経験から、その時の苦労の一つが、テーマにそくした聖書テキストの選定にあったと思います。本書を読みながら、幾度か〈えっ? ここから?〉と選定の意外性にハッとさせられました。改めて歴史の教会、そして同時代を生きる説教者たちの黙想や説教に触れることの大切さを知らされます。例を挙げるとすれば、「聖徒の交はり」を担当した朝岡勝氏は、「『聖なる公同の教会』の可視的な形態としての地上の教会を『聖徒の交はり』と信じ告白する信仰を、聖書からどのように聴き取ることができるのだろうか。とりわけ新型コロナウイルス感染症という災禍の只中にある私たちにとって、教会はどのような存在であり、またどのようであらねばならないか。私たちが聴くべき御言葉の選定は重要である。ここではヨハネ黙示録1章に記される、パトモスのヨハネに耳を傾けてみたい」(173ページ)と綴り、黙示録1章9節の豊かな「深読」を展開しています。
執筆者の多くは現役の牧師たちで「信頼できる黙想の導き手」です。それぞれを任された牧師たちが「スピードを落とし、ひとつの文章に留まり、じっくり時間をかけながら言葉の深みに分け入ってい」き、「そうして、自分のものの見方や立ち居ふるまいに影響を与えるまで文章を味わっていく」(3ページ)、丁寧な「深読」作業を通して神に聴いていきます。まさにバトンリレーのような個々の説教者のユニークな視点による黙想や解説を通し、歴史の教会が使徒信条を告白することで大事にしてきた「変わることのない」キリスト教信仰の豊さを味わうことができました。
本書のような「説教黙想」とは、本来、礼拝で説教の役割を担う牧師のための手引きでしょうが、聖書全体の要約とも言える「使徒信条」を取り扱っているがゆえに、一般の信徒にとっても有益な信仰の手引きであり、求道の友にとっては格好の入門書となっています。いま、心からお薦めの1冊です。
松本雅弘
まつもと・まさひろ=カンバーランド長老キリスト教会高座教会牧師