主に捧げるブーケ
〈評者〉岩佐めぐみ
かつて、内容を知らずジャケットに惹かれて本やCDなどを買うことを「ジャケ買い」といいました。
美大卒の身としては(その成績は脇におくとして)ジャケットはとても気になるのです。けれどジャケ買いで失敗したことは少なくないし、逆にこの内容ならもっと違うジャケットが似合うのでは? と感じることもあります。
本書を一目見た瞬間「私はこれを買わなくてはいけない!」と久々に心沸き立ちました。この素敵なジャケットをまとう本はいったいどんな─?
期待は裏切られませんでした。ジャケットとみごとに調和した素晴らしい一冊! もう大満足です。
まずお伝えしたいのは表現の豊かさ。日本語とはこんなにも優しく、しなやかで美しいのかと改めて驚かされます。私たちに与えられている日本語は宝物だと誇らしくなりました。同時に、この宝がその価値をどんどん失いつつあるような危機感も覚えました。使われることばの数が減り(新しいことばは生み出されていますが)、思いや考えなど、大切にされなくてはならない心の表現も単純化されてきているのでは、と。
そういう私も手紙よりメール、ラインのやり取りにスタンプを多用している一人……反省です。
なので、大人はもちろんのこと、ルビもふられているので、ぜひ子どもたちも本書の多彩な表現に触れてほしいと切に願います。
特徴的なのは「 」(スペース)で区切られて「、」(読点)が抑えられていること。小川のような心地よいその流れに誘われ、声に出して読みたくなるのです。すると物語は細部までさらに色づき息づくのがわかります。
どうぞ、この本をクリスマスシーズンに括ることなく、いずれの季節であっても手に取っていただきたいです。神様を知らない人は神様へと導かれ、すでに神様を知った人は、主が確かに生きておられ私たちの傍らにいてくださること、今日も主のご計画の中で導いてくださっていることを再認識するでしょう。
内容をほんの少しご紹介します。マタイの福音書で心を痛めてきた、二歳以下の男の子殺害について「イエスをたすけたクモ」で私ははじめて慰めを得ました。今後、同じ個所を読むときには痛みを超えて主の愛に目を向けたいです。
「乳香の木」では、木の崇高な祈りに私の霊も共鳴して思わずひざまずき、祈りをささげました。
タイトルともなっている「みちびきの星」は天地創造から救い主の誕生までを一つの星を通してたどります。空を見上げ「あの星にも聖なる仕事が与えられているのかな?」と思いを馳せ、「地上にいる私も使命を果たさせてください」と主に願わずにいられませんでした。
ひとつ読むごとに心に花ひらくような小品が七つ。最後にはこの一冊が主に捧げるために束ねられたブーケに思えました。
しずかでありながら強い感動がもたらされ、大きく深呼吸。
そこには数パーセントのため息が混じっていたことを告白します。ああ、私もこんな作品が書けたらいいのになあ、という……。
そんなあこがれも含め、この余韻をいつまでも味わっていたい、消えてほしくないとページをめくっていたら巻末にうれしいニュースを発見!
『イースター小品集 ピラトの妻』(仮題)二〇二三年 春 刊行予定とのこと。
今度はどんな世界に導いてもらえるのでしょう。
岩佐めぐみ
いわさ・めぐみ=童話作家・ぶどうの木土浦チャペル