SDGsの根底にあるべきものを示す良書
〈評者〉大内信一
聖書と農
自然界の中の人の生き方を見直す
三浦永光著
四六判・203頁・定価1650円・新教出版社
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現代社会はあらゆる面で危機的状況にある。人類存亡にかかわる危機に直面していると言っても過言ではないであろう。そのような現実を世に知らせ、その原因について考察し、混迷する社会に本来あるべき姿、進むべき方向を示してくれるのが本書である。
著者は、まず三つの詩篇を通して、天地の創造主が人間を祝福するために創造された自然界について、また、その自然界の秩序に従って人間が営むべき生活、特に「農」および「農の営み」を基とする社会の重要性について語る。物質的豊かさを繁栄(祝福)の尺度とし、経済的合理性を追及するがために「農」が軽んじられる社会の危うさ、自然の恵みに感謝することを忘れ、農薬や化学肥料などの工業製品、化石燃料に依存する工業化した歪んだ「農の営み」に警鐘を鳴らしている。今や地球規模の課題となっている環境問題について、著者は次のように提言している、「現代の我々はこのような懸念の中に生きている。豊作と祭りをいつまで続けられるのか、不安の中に生きている。人類の活動を今後、大幅に抑制し、地球の生物資源の消費を年々再生する範囲に留め、また廃棄物を環境が吸収できる範囲内に留め、資源を大切に使う方向へ転換すべきときが来ている」(13頁)。真剣に耳を傾け、応答しなければならないと痛感させられる。
著者が引いている聖句「(主は)……地から糧を引き出そうと働く人間のために さまざまな草木を生えさせられる」(詩篇一〇四篇一四節 新共同訳)、また「『主の慈しみを待ち望む人』とは、主が雨と大地と太陽の働きを与えてくれるのを待ち望み、これを感謝して受け、農の仕事に励む人。そして神からの贈り物である収穫物に感謝し、地域の人々と分かち合い、楽しむ人である」( 25 頁)との言には農を営む信仰者として深い感動を覚え、新たな力を与えられる。
アモス書は、同じ農夫として親しみを覚えて読んできたが、第2章「農夫アモスの預言」を通して改めてその存在意義の大なることを感じた。人類を祝福するために創造された自然界の秩序に従うことなく、むしろこれに抗い、「罪ある者」「主に逆らう者」(詩篇一〇四篇二五節)となって形成した社会の実状に対する預言者アモスの糾弾と警告が当時の社会状況を踏まえて語られている。
著者は、アモスが受けた啓示の光に照らして現代社会の諸状況に目を向け、その危機的状況およびその原因と行く末を指摘し、アモスのごとく厳しい警告を発している。「アモスより見たる現代日本」との副題を付したい論考である。第5章「物質的な豊かさと恐怖」よりも「簡素な暮らしと助け合い」において、著者は単に警告を発するに止まらず、政治、経済、エネルギー、農業政策について「聖書が現代に語りかける言葉」を取り次ぎ、現代に生きる信仰者として、アモスを通して語られた神に真実に応答している。本書の優れた特徴である。
第3 −4章「イエスの農耕生活」および「ヨハネ福音書における農業」では、当時の農民たちの様子がよく伝わって来る。農を営む者として、人となりし神イエスになお一層の親しみを覚えるようになった。
補講「内村鑑三と農業」で紹介されている「農は国の基」、「農民は社会の土台」「小自作農を基礎とする社会」等の内村と英国人ジャーナリストJ・W・R・スコットの思想と合わせて、恩師小谷純一(愛農会創始者)の「農こそ人間生活の根底たることを確信し、天地の化育に賛して、衣食住の生産に精進せん。人生究極の目的は、愛の実践にあることを確信し、愛農愛人の生活に徹せん」(愛農会綱領より)、「農業者たる前に人間たれ」との教えを思い起こし、我が歩むべき道と使命(小自作有機農業、生産者と消費者の「提携」、ソーラーシェアリング=営農型発電等々)を再確認することができた。著者に心から感謝したい。
大内信一
おおうち・しんいち=農業・あだたら聖書集会、日本有機農業研究会理事