人生や社会の闇を経験し、光を求めるときにこそ
〈評者〉石原知弘
光を仰いで
クリスマスを待ち望む25のメッセージ
朝岡 勝著
B6判・248頁・定価1760円・いのちのことば社
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『光を仰いで』という題名にしては本書の表紙の装丁は少し薄暗く感じるかもしれませんが、よく見るとそれは夜がまもなく明けようとしているところを描いたものであり、本書の意図をよく伝えるデザインであることが分かります(一転して鮮やかな中表紙の色もお確かめください)。手にしたところから始まる本書との対話は、頁をめくるごとに深められ、読み終えたときには読者は確かな希望の光へと導かれていることでしょう。
副題に「クリスマスを待ち望む25のメッセージ」とあるとおり、光の到来であるクリスマスを主題とした説教集です。収められた説教は、著者が約二〇年にわたり牧師を務めてきた日本同盟基督教団徳丸町キリスト教会で語られたアドベント・クリスマスの説教が基になっており、最後の一編のみ書き下ろしとなっています。25の説教に一二月一日から順番に日付が記されていて、二五日のクリスマスまで一日に一編ずつ読んでいけるようにされています。
「待つ」という姿勢に焦点を当てた四編の説教から始まり、四福音書からのクリスマスメッセージ、お馴染みの登場人物であるマリア、ヨセフ、羊飼い、博士たちのクリスマスストーリー、ローマ、エペソ、ピリピ、コロサイのパウロ書簡からのキリスト論の説き明かし、ガリラヤという地に注目した四編、そして最後はヨハネの黙示録からクリスマスと再臨という御子の二つの到来を重ね合わせる五編となっています。クリスマスの説教と言えばマタイとルカによるものが定番ですが、本書の聖書テキストの選択はクリスマスの意味が持つ豊かな広がりを教えてくれます。
それぞれの説教は、丁寧な御言葉の説き明かしによって進められ、教理的なことについても信条文書などを引用しながら分かりやすく解説されています。また、随所に著者の経験からの証しが織り交ぜられており、御言葉が私たちの日常に対して持つ意味を身近に感じながら読むことができます。説教にはやはり説教者の人生と信仰が映し出されます。東日本大震災の際に多くの働きに関わった経験を踏まえて記されている文章を、特にガリラヤに目を注ぐ説教の中に見ることができます。そこには、教会と国家の問題をはじめとする政治や社会の課題にも目を向け積極的に行動してきた著者の信仰がよく表れているように思います。
そして、そうした幅広い視野の根底には、著者の個人的な信仰的実存とも言うべきものがあります。私はクリスマスのメッセージ集に終末の希望を告げる黙示録からの説教が五編も取り上げられていることに特に関心をもって読みましたが、著者はその中で、「クリスマスの季節は私にとってはいつも御子イエス・キリストの誕生を祝う時であるとともに、天の御国を見上げ、よみがえりの時を待ち望む時として過ごして来ました」とクリスマスへの思いを記しています(本文二三二頁)。この言葉の背景にある著者の高校生のときの経験については、一二月二四日の説教をお読みください。
この書評が読まれる頃にはクリスマスという主題は少し季節外れとなっているかと思いますが、本書はクリスマスシーズンにだけ手にする説教集ではないように思います。人生や社会の闇を経験し、光を求めるときにはぜひ本書を開いてみてください。そこからまことの光が射し込んでくるはずです。
石原知弘
いしはら・ともひろ=日本キリスト改革派東京恩寵教会牧師