『本のひろば』は、毎月、キリスト教新刊書の批評と紹介を掲載しております。
本購入の参考としてください。
2018年7月号
出会い・本・人
本の力・魅力(エッセイ:菅田栄子)
本・批評と紹介
- 『教会と国家Ⅲ』
カール・バルト著、新教出版社―(宮田光雄) - 『Q文書』
山田耕太著、教文館―(嶺重淑) - 『説教を知るキーワード』
平野克己著、日本キリスト教団出版局―(早矢仕宗伯) - 『和解と交わりをめざして』
片山はるひ他編著、日本キリスト教団出版局―(塩谷直也) - 『地域福祉と教会』
関西学院大学神学部編、キリスト新聞社―(久世そらち) - 『悪と苦難の問題へのイエスの答え』
本多峰子著、キリスト新聞社―(郷義孝) - 『ザ・ユーカリスト』
E.スヒレベークス著、ヨベル―ウィンセンテ・アリバス - 『変わらない主の真実に支えられて』
黒木安信著、ヨベル―(大井満) - 『新約聖書と神の民 下巻』
N.T.ライト著、新教出版社―(淺野淳博) - 『教育的伝道』
西谷幸介著、ヨベル―(廣瀬薫)
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編集室から
通勤途中で出会う線路沿いに建つ教会。何年も電車の車窓から、この教会の景色を見ながら出勤してきた。
既に車内が充分混み合っているのに、次の停車駅で乗車率が倍増するため、心身を整え受け止める準備をしているときに通過する教会。とんがり屋根とアーチ型の玄関にガーランドが飾られていて楽しそうな雰囲気。最初はそんな印象で眺めていた。
一度だけ仕事で訪ねる機会に恵まれたことがある。打ち合わせを教会でさせていただいたとき、少し離れたところで信徒と思われる方々が立ち上がって、机の上のものと懸命に格闘していたようすを覚えている。
帰り際に「玄関がかわいくて、楽しそうですね」と、いつも、思っていることを話すと「表だけなんですよ」と冷めた返事が帰ってきた。よく見ると華やかさは表壁だけて、すぐ後ろからは四角い建物になっていた。教会の苦悩と努力が垣間見えた瞬間。このときから、勝手な親近感を抱くようになった。
数年後、『ひとり日和』(青山七恵著/河出文庫)が芥川賞受賞で話題になったので読んだ。主人公が住む家はちょうどこの教会あたりではないかと思って、通り過ぎる僅かな時間、目を凝らして探してみるが結局分からないまま諦める。
さらに数年後、教会がブルー(だったと思う)シートに覆われているのを発見。「工事をしているのか?」と思っていたら数ヶ月後、奥までとんがり屋根の教会が出現! ガーランドはなかった。かわりに少し壮麗さが加わったような気がした。
またさらに数年後、今度は教会前の線路が工事を始めたため風景が遮られてしまった。「え〜つまらない!」と思うが、空気の確保が最優先の車内で、毎日車窓の眺めを楽しめるわけではない。うっかり忘れていたら、いつの間にか電車が地下道を走っていることに気づく。「もう、永遠に見られないのか〜」
今は、頭の中であのときの懸命に働く信徒の方々を思い出して、心身に気合を入れている。(吉崎)