『本のひろば』は、毎月、キリスト教新刊書の批評と紹介を掲載しております。
本購入の参考としてください。
2018年11月号
出会い・本・人
「このあと どうしちゃおう」で どうしちゃおう(エッセイ:鈴木光)
本・批評と紹介
- 『旧約新約聖書ガイド』
A.E.マクグラス著、教文館―(山本芳久) - 『宗教改革の現代的意義』
日本キリスト教文化協会編、教文館―(出村彰) - 『アレクサンドリアのクレメンス ストロマテイス(綴織)Ⅱ』
秋山学訳、教文館―(阿部仲麻呂) - 『アレテイア ローマの信徒への手紙』
日本キリスト教団出版局―(柳谷知之) - 『カール・バルト』
福嶋揚著、日本キリスト教団出版局―(佐々木潤) - 『続 この器では受け切れなくて』
菊地譲著、ヨベル―(鈴木正三) - 『カルヴァン研究―特集 ものとしるし』
ヨベル―(関川泰寛) - 『香りの舟』
柴崎聰著、土曜美術社出版販売―(中村不二夫) - 『キリスト者への問い』
松谷好明著、一麦出版社―(冨永憲司) - 『長老制とは何か』
澤正幸著、一麦出版社―(深谷松男) - 『1冊でわかるキリスト教史』
土井健司他著、日本キリスト教団出版局―(阿部善彦) - 『絵画と御言葉』
吉田 実著、一麦出版社―(町田俊之)
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編集室から
「ここから富士山が見えますよ」
下をむいて歩いていたら誰かから話しかけられた。落ち込んでいるように見えたのだろうか。
梅雨明け間もない頃、先週行ったキリスト教美術展のことを考えながら歩いていた。仕事で大変お世話になった方の絵が展示されると聞いていたので、ぜひ、拝見したいと思って向かったときのことだ。
生前には適えられなかった初めての美術展出展。
ご本人曰く、仕事の依頼がどんどん舞い込んできたから売り込む必要がなかったらしいが、自慢げに語る言葉の裏に、美術展開催への憧憬が隠されていたように思う。出展作品のサイズは額に入れても他と比べると小さいのだが、そんなプライドを反映するように大きく見え、見劣りすることはなかった。
遺品となった作品整理に立ち会ったとき、イエス・キリストのスケッチを見つけ、その枚数の多さに驚かされた。道路脇の僅かな土で逞しく生きる草花を愛おしまれた方。話しかけられたときは丁度お好きだった草花を探していたときだった。
顔を上げると、いかにも人の良さそうな老人が橋の中央を少し降った辺りからこちらを見ていた。一瞬躊躇したが、日曜日の教会からの帰り道、一週間の中で一番心が穏やかな時間だったこともあり促されるままに動く。
隣接する建物と木々の隙間から薄っすら、僅かに頂上が見えた。立ち位置が少しでも変わると見えなくなる。障害物を掻き分け見定めようとするさまが、コンクリートの隙間から芽を出す草花と似ているような気がしておかしかった。
「東京でも天気が良いと見えるんだよ」
老人の得意げな言葉通り、その後、見ようとするときはいつも雲に遮られていた。次にお目見えできたのは晩夏の夕暮れ。
山の向こう側に広がる神秘の風景を、覚えておきたいと思った。(吉崎)