『本のひろば』は、毎月、キリスト教新刊書の批評と紹介を掲載しております。
本購入の参考としてください。
2018年5月号
出会い・本・人
座右の書の著者たちへの感謝(エッセイ:西谷幸介)
本・批評と紹介
- 『NTJ新約聖書 注解ガラテヤ書簡』
浅野淳博著、日本キリスト教団出版局―(笠原義久) - 『バレエ・シューズ』
ノエル・ストレトフィールド著、教文館―(三辺律子) - 『自伝的伝道論』
加藤常昭著、キリスト新聞社―(張 宇成) - 『信仰の基礎としての神学』
松田央著、新教出版社―(中野敬一) - 『アレクサンドリアのクレメンス ストロマテイス(綴織)Ⅰ』
教文館―(津田謙治) - 『霊魂の不滅か死者の復活か』
オスカー・クルマン著、日本キリスト教団出版局、―(矢田洋子) - 『神と向き合って生きる』
横田幸子著、新教出版社―(大嶋果織) - 『義認と自由』
ドイツ福音主義教会常議員会著、教文館―(藤掛順一) - 『神の国』
及川信著、一麦出版社―(左近豊)
- 近刊情報
- 書店案内
編集室から
最近、平野啓一郎『マチネの終わりに』(毎日新聞出版、2016年)を読んでいます。主人公は天才ギタリストの蒔野と通信社記者で戦地へ赴任した洋子。「三回会っただけ」の二人の出会いと別れを描いた物語です。恋愛だけでなく、親子関係、中東情勢、芸術、文化、ジャーナリズム、中年の危機など、個人的なものから社会的なもの、硬軟さまざまな問題が織り込まれています。質の異なるテーマが絶え間なく現れてくるので、年代や立場によって違った味わい方ができそうです。
作中でギタリストの蒔野が音楽のフーガ形式について、「音楽は未来に向かって一直線に前進するだけじゃなくて、絶えずこんなふうに、過去に向かっても広がっていく」と言う場面があります。メロディーが変化をつけて展開されていき、昇華されて曲が締めくくられるということが言われています。最終章まで見(聴き)届けると、もはや、初めに登場した主題は同じようには聴こえません。この小説では、「現在と未来が過去を変えていく」ということが繰り返し登場します。
この文章を読み、再読の楽しみを思いました。作品の最後まで辿りつき、もう一度読んでみると、まったく違う景色が見えてくることがあります。小説を読む醍醐味は、そうやって自らの現実から一旦離れて、他者をイメージし、何度でも普遍的なつながりを見出すことではないかと思います。
スマホやパソコンですぐに調べる。何でもスピーディーに対応、すぐに知りたいし、「役立つ」知識を得たい。どういうことなのか「まとめ」で読む。「いいね!」したい、されたい。……急いで点を検索するばかりで、情報と承認欲求があふれる社会に息苦しさを感じることがありますが、その疲労をひととき癒してくれる一冊でした。(福永)