『本のひろば』は、毎月、キリスト教新刊書の批評と紹介を掲載しております。
本購入の参考としてください。
2017年5月号
出会い・本・人
まるごとの自分を生きたい(大澤秀夫)
本・批評と紹介
- 『旧約文書の成立背景を問う』
魯恩碩著、日本キリスト教団出版局―(大野惠正) - 『イラクのキリスト教』
スサ・ラッサム著、キリスト新聞社―(川口一彦) - 『旅する教会』
永本哲也他著、新教出版社―(芦名定道) - 『旧約聖書ヘブライ語文法書』
ハインツ・クルーゼ著、キリスト新聞社―(阿部望) - 『アメリカ映画とキリスト教』
木谷佳楠著、キリスト新聞社―(大宮有博) - 『結婚と家族の絆』
長島正・長島世津子著、教文館―(﨑川修) - 『私の聖書歳時記366日』
田中光三著、ヨベル―(藤原孝行) - 『マルティン・ルター』
W・カスパー著、教文館―(鈴木浩)
- 本屋さんが選んだお勧めの本
- 近刊情報
編集室から
たいてい小説を読んで寝る。眠いのであまり読み進められないし、気づけば同じところを何度も読んだりしているが、でも楽しい。神学や哲学が分析的に明らかにした神と人の真実が、小説の中で受肉しているのを見出すのは、うれしいし、慰めを受ける。
年明けから読んでいるのは佐藤泰志。どれくらい知られている作家なのだろう。村上春樹と同年1949年に生まれ、新人賞をとったのも同じころ。物語を構成する要素も、共通性を感じることもある。ただ、佐藤の作品は暗い。彼が41歳で自ら死を選んだことを知れば、その印象はいっそう強まる。しかし、その垂れ込める厚い雲を破って射し込んでくる一筋の光を感じるとき、彼の作品は不思議と忘れがたいものとなる。
佐藤泰志と言えば、詩人・福間健二である。佐藤について多くの美しい文章を書いている福間が、ある文庫の解説を「佐藤泰志の小説の大きな魅力のひとつは、人と人の出会いの描き方にある」と書き出していて、納得した。誰かとの出会いを通して、佐藤の登場人物は光を受ける。
以前、わからないままに読んだ思想家の言葉を思い起こす。アウシュヴィッツからの帰還者であるこの思想家は、私たちはどこで神に出会うのかと問い、他者の内にその場を見た。神は遠くの天におられるのではなく、目の前の他者の内に顕現なさる。そう理解できるとき、目の前のこの人は、私の自由に操れる存在、私が殺すことの出来る存在、私の延長ではなくなり、彼方から訪れる真の他者となる。
日々の暮らしにつまずき倦んだ者たちが、誰かと行き会うことをきっかけに、小さな救いを経験していく。それを慈しみをもって書き留める佐藤の小説を読む者は、そういえば自分もそのような光を得てきたと思い出すのだ。 (土肥)