『本のひろば』は、毎月、キリスト教新刊書の批評と紹介を掲載しております。
本購入の参考としてください。
2016年11月号
出会い・本・人
人間であり続けること(岡野昌雄)
本・批評と紹介
- 『続イエスの言葉100選』
河合裕史著、日本キリスト教団出版局―(山北宣久) - 『教会とディアコニア』
木原活信他著、キリスト新聞社―(森本典子) - 『キリスト教における死と葬儀』
石居基夫著、キリスト新聞社―(吉岡恵生) - 『ガラテヤの信徒への手紙を読もう』
船本弘毅著、日本キリスト教団出版局―(岩田昌路) - 『大崎節郎著作集 6実践神学関係』
大崎節郎著、一麦出版社―(藤井和弘) - 『アガペーの言葉』
山崎英穂著、日本キリスト教団出版局―(辻建) - 『十字架につけられた精神』
小山晃佑著、教文館―(深田未来生) - 『カルヴァン』
C.シュトローム著、教文館―(石原知弘) - 『三浦綾子 366のことば』
森下辰衛監修、日本キリスト教団出版局―(中村啓子)
- 本屋さんが選んだお勧め本
- 近刊情報
- 書店案内
編集室から
古い友人から連絡を受けた。「久しぶりに『深い河』を読んだよ」と。
なんて懐かしい書名! 遠藤周作の、あの最後の小説が刊行されたとき、私は大学二年生、十九歳だった。すぐに読み、深く感動し、彼にすすめた。彼とは同じ学生寮に暮らす、文字通り寝食を共にする仲だった。本と映画の話ばかりしていた私たちだったが、『深い河』についても、どれくらいの長い時間を費やしただろう。
本作品の多くの読者と同様、私たちも、主人公である大津の生き方に心ひかれた。母の信仰を受け継いだ大津は、紆余曲折
を経て、フランス・リヨンに渡る。カトリック司祭になるために。しかしヨーロッパの土壌で育まれたキリスト教への違和感を、どうしてもぬぐいきれず、ガリラヤの修道院へ移り、さらにインドのガンジス河のほとりへと流れ着く。このインドの地で大津は、夜明け前に起き、一人でミサを捧げた後、町へ出て行く。そして見棄てられ、行き倒れとなった人々を、河へと運ぶ仕事をしている。「(あなたは)と大津は祈った。(背に十字架を負い死の丘をのぼった。その真似を今、やっています)」
『深い河』の研究書にフィリピ書の御言葉が引かれていたのを思い出す。「何とかして捕らえようと努めているのです。自分がキリスト・イエスに捕らえられているからです。」
大津はそのように生きた。あの小説に出会ったとき、私たちは実社会を恐る恐る覗き込む学生だったけれど、できれば、大津のうに立ち止まったり、後戻りしたりしながらもなお、この一本道を歩んでいきたいと願った。あれから二十年。今、あのときの自分に恥じない者であるだろうか。 (土肥)