『本のひろば』は、毎月、キリスト教新刊書の批評と紹介を掲載しております。
本購入の参考としてください。
2016年6月号
出会い・本・人
文学は実学である(佐藤裕子)
本・批評と紹介
- 『日本的プロテスタンティズムの政治思想』
柳父圀近著、新教出版社―(本田逸夫) - 『インクルーシブ神学への道』
鈴木文治著、新教出版社―(関田寛雄) - 『食材としての説教』
北村慈郎著、新教出版社―(本田哲郎) - 『現代聖書注解 サムエル記上/下』
W.ブルッゲマン著、日本キリスト教団出版局―(宮井岳彦) - 『地球共生社会の神学』
東方敬信著、教文館―(増田 琴) - 『新渡戸稲造と歩んだ道』
佐藤全弘著、教文館―(柴崎由紀) - 『私のごすぺるくろにくる』
沢知恵著、新教出版社―(深田未来生) - 『新約聖書と神の民 上巻』
N.T.ライト著、新教出版社―(小林高徳) - 『キリエ』
ヨッヘン・クレッパー著、日本キリスト教団出版局―(川﨑公平) - 『その神の名は?』
梅津順一著、教文館―(近藤勝彦)
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編集室から
「一万円は素晴らしいんですよ」
印刷会社の営業担当者が教えてくれた。
確かに、昼食代六百円だったら約半月分、千円の書籍が十冊買える。私はそれくらいのことしか思いつかない。
一万円には十種類以上の特色が使われているとのこと。普通印刷の色は青、赤、黄、黒の四版を重ね、それぞれの濃度のバランスで全色を網羅する。例えば、緑は青と黄を重ねて表すといった具合。それに対して特色は既成の色、一色に対して一版を用いるので十色だとかなり贅沢な仕事になる。一万円はさらに箔や透かしが施されていて、それらを紙幣のためだけに開発した紙に印刷するということだから破格の経費。デザインも他国と比べて非常に複雑だとのこと。
一万円は印刷分野において、日本の高度技術の結集であり、世界に誇れる最高傑作なのだそうだ。
今まで一度も、そんなふうに一万円を見たことがなかった私は、何よりも営業マンの饒舌な語りと、プロフェッショナルな着眼点を尊敬した。
高揚感が漂う中、特色は正確には何色使っているのだろうと思って聞いてみると、「知りません」と憮然とされてしまった。後になって、すべては秘密、愚問だったと反省する。
圧倒される語りにただ頷いていると、最後は「お金を作ろうなんて絶対に考えてはいけませんよ」という決め台詞のような言葉で締めくくられた。
人は、目に映るものを無意識にシミュレーションし選別しているそうだ。これは自分にとって必要か否か。
私にとってお金は、欲しいものと交換できる便利なもの。一度、特色の数を数えてみたいと思うが、買い物をする時にしか見ないのでなかなか難しい。しかも、一万円の素晴らしさを知った今でも、手に持っているときは忘れている。私は全然意識が足りないと思った。 (吉崎)