多様であり、一つである教会を表す説教
〈評者〉山本裕司
本書は新版『教会暦による説教集』の第三巻にあたり、既刊一巻『クリスマスへの旅路』(2020年10月)、二巻『イースターへの旅路』(2021年2月)に続く最終巻です。全巻、日本キリスト教団出版局「主日聖書日課」に基づく説教箇所が定められています。したがって全巻を通読することによって、旧新約聖書に貫かれる壮大な「救済史」を再体験しつつ、信仰の旅路を辿ることが出来る、そのような秀逸な企画によって生まれた説教集です。
本書はペンテコステから始まる「聖霊降臨節」から「降誕節」終末主日(アドヴェント直前)に至る説教が集められています。その内「聖霊降臨節」説教は九点が収められますが、同時にこの期節は、多くの「行事暦」が含まれるところに特徴があり、「平和聖日」「世界聖餐日」「神学校日」「宗教改革記念日」「聖徒の日」「終末主日」の説教が網羅されています。
この書も比較的若く多様な背景をもつ十五人の牧師たちによる執筆ですが、いずれの説教も編著者、中道基夫教授(関西学院大学神学部)が指摘する通り、それぞれが直面した事柄と聖書との格闘が見られ、教義的、聖書学的な正しさを越えた、生き様を問う言葉が綴(つづ)られており、大変感銘を受けました。失礼ながら以下その断片を記します。
「聖霊の風が吹き抜けていく。するとどうなるか。みんな神さまの方を向くようになります」(土肥研一牧師)。それはコロナ禍によって強要されるような「同調圧力」(草地大作牧師)とは異なると暗示されます。わたしたちは「教会への熱心さで一致しなければならないのでしょうか。……(神は)想像以上に多様な方法を用いる」お方です(松村さおり牧師)。「むしろ正しさ、強さを求め……私たちの『信仰』こそが『その人と最後まで共に』を生きられなくしている」(大仁田拓朗牧師)。聖霊による一致と偽りの一致の狭間で、迷いつつ「正解」なき旅を続ける私たちの教会です。しかし「インマヌエルなるイエス・キリストは、今日も助け主なる聖霊によって、私たちをどんな時にも見放さず、……担い、父と子と聖霊の三位一体の交わり、……究極の愛の交わりの中に共におらせてくださるお方です」(朝岡勝牧師)、そう確信へと導かれます。
このように説教者たちが、ヤボクの渡しで神と夜明けまで格闘するようにして紡ぎ出した言葉に私は打たれます。それらは時に一見、互いに矛盾した言葉であるかもしれません。しかし説教集全体を俯瞰(ふかん)すれば、どこも対立はしていない、それこそまさに聖霊の賜物である「多様であること、一つであること」、その教会の「豊かさ」がこの説教集には結実しているのです。
三輪義也氏による装丁には「炎のような舌」を冠とする十二使徒が描かれています。彼らは皆揃って一方向(神さまの方)を向き、三位一体を表す三つの「輪」の上に、もう一つの輪を自ら作っています。それは教会の一致を表すに違いありません。それでいて、使徒たちの顔は、一つとして同じものはありません。そこに使徒たちの一致と多様が表現されており、この説教集を見事に象徴しているのです。
新版・教会暦による説教集
ペンテコステからの旅路
聖霊降臨日から教会行事暦へ
中道基夫編
四六判・240頁・1980円(税込)・キリスト新聞社
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山本裕司
やまもと・ゆうじ=日本基督教団西片町教会牧師