神学する者が立つべき原点が示される
〈評者〉小室尚子
シンガクすること、生きること
いちばんわかりやすいキリスト教神学入門
ケリー・M・カピック著
藤野雄大訳
A5判・120頁・定価1320円・一麦出版社
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神学校に入って最初の講義で、教授から「神学する喜び」という言葉を聞いたときの戸惑いのような、一方で新鮮な感覚を、今も鮮明に思い出す。そのような言い回しをそれまで聞いたことがなかったからである。「~学する」とは一般に言わないのではないだろうか。しかし神学校の学びは、確かに「神学する」喜びを教えてくれた。他の学問に向き合うこととは全く違う感覚であったが、その感覚をどのように説明できるのか、これまで言葉にならなかったのである。が、本書は、それを明確に、また「神学する」目的までも鮮明に語りつくしている。
原著者は、アメリカ合衆国ジョージア州のカベナント・カレッジの神学教授ケリー・M・カピック氏で、「訳者あとがき」によれば、広義のカルヴァン主義の流れをくむ、長老派的、改革派的な伝統を重んじる新進気鋭の神学者とのことである。
内容構成は、二部構成になっており、第一部は、「なぜ神学を学ぶのか」、第二部は、「信仰的神学と神学者の特徴」となっている。
第一部に、「神学とは、専門家のためのものではありません。神学とは、生き、呼吸し、苦闘し、恐れ、そして希望を抱き、祈る、すべての人が行う思索であり、対話なのです」と言われるように、神学することは、我々の生活の外で起こるのではなく、生活と切り離せないものである。しかし、神学していることが偶像になっているということが起こっていないか、神学する者が陥りやすい誘惑、誤りを的確に指摘しながら、「神学とは」そして「真に神学する」とはどういうことであるのかを説いていく。
第二部、第4章が「神学的思索とは、人格に関わる深遠な冒険です。両者の間に冷徹な科学的分離が入り込む余地はありません」という言葉で始められるように、神学は、言うまでもなく信仰が前提になるが、神学する者自身の、神の前における生き方、思考あらゆる姿勢が問われる学問であるということである。
ゆえに、祈り、学び、悔い改め、聖書の読み方等々、人生のすべての面が問われていることを常に覚えていることである。知識だけで神学は語れないのである。
英語のタイトルは「A Little Book For New Theologians」、日本語でタイトルは、「シンガクすること、生きること─いちばんわかりやすいキリスト教神学入門─」となっているが、これは、入門書というより、「神学する」つまり研究者のみならず、聖書を説くすべての人々に、自己吟味を迫る一冊である。初めて神学する者だけでなく、すべての神学する人々に一読を薦めたい。ここには神学するものが立つべき原点が示されているからである。
著者は、結びの中で、「これまで書き記してきたことは、わたし自身が、すでに成し遂げたものではなく、自分なりに、正しい方向性をさし示しているという点で、健全な神学者と神学のしるしであると考えたものである」と述べている。
小室尚子
こむろ・なおこ=金城学院大学教授