日韓キリスト教関係史資料Ⅲ1945―2010

日韓関係史研究における記念碑的業績
〈評者〉徐 正敏

日韓キリスト教関係史資料Ⅲ1945―2010
富坂キリスト教センター編
A5判・1085頁・本体15000円+ 税・新教出版社
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 日韓関係史をキリスト教を介して見ることも可能であろう。特にいくつかの側面で、キリスト教が日韓関係史究明
のための有効なテーマであることは確かである。一九八四年に第一巻にあたる『日韓キリスト教関係史資料 1876―1922』(小川圭治・池明観編、新教出版社、一九八四、全五六〇頁)が出版された。この資料集は日本側資料しか収録していないという限界があった。しかし同書の有効性は、近代史の不幸な日韓関係を深く究明する資料として、特に一般的には簡単にアクセスできなかった関係資料の多数を閲覧、参照できるようになった点にある。それはキリスト教史の分野に限定されない。第一巻にあたるこの資料集は一九九〇年に韓国語版(キム・ユンオク、ソン・ギュテ共訳、韓国神学研究所、全八七〇頁)も出版され、日韓関係史の研究に大きな貢献を果たしたのである。次に一九九五年に、『日韓キリスト教関係史資料Ⅱ 1923―1945』(富坂キリスト教センター編、新教出版社、一九九五、全八五〇頁)が出版された。この巻の最大の特徴は、第一巻ではできなかった韓国側資料を収録し、内容的な不完全性を克服した点である。韓国語資料はすべて日本語に翻訳された。
同書の有効性は第一巻と同様であるが、さらに韓国側の資料が追加されて、利用価値が拡大された。そしてついに、第二巻から一五年ぶりに、『日韓キリスト教関係史資料Ⅲ1945―2010』(富坂キリスト教センター編、新教出版社、二〇二〇、全一〇八五頁)が出版された。これは、日韓キリスト教関係史研究における記念碑的な業績である。
同書では、日本と韓国の資料をそれぞれ三部のテーマに編成した。第一部「アジア太平洋戦争敗戦から日韓基本条約締結までの交流の動き」(日本側六四編、韓国側三七編)、第二部「韓国民主化闘争と日韓連帯の動き」(日本側二六七編、韓国側八六編)、第三部「戦後補償問題を含む日韓交わりと統一への模索」(日本側六一編、韓国側一二編)である。収録資料の総数は五二七にのぼった。特に何よりも韓国の民主化運動と、それに対する日本側の連携協力を示す資料が忠実にまとめられた。この資料集の第一巻の編者である池明観は、二〇一五年六月二〇日の明治学院大学での講演で、七〇年代から八〇年代の、韓国民主化運動における日韓キリスト教の同志的な連帯活動の歴史をふりかえり、「東京は最も善き気運を懐胎して、発信するアジアのパリのようであった」と表現した。この第三巻にはその時代の第一次史料が大量に収録されている。日韓キリスト教関係史研究に使命感を抱く研究者たちがこの巻の編集作業に没頭したのは、池明観の見解に共感したからであろう。このような努力が実って資料集全三巻が完結したのだ。
 現在の日韓関係は戦後最悪だと言われる。こうしたときに、日本と韓国のキリスト教の間に「チーム・スピリット」が生まれた時代の歴史資料が公刊されたことには大きな意義がある。日韓関係の最も良い伝統が一九七〇年代、韓国民主化運動、そして統一運動と連帯した日本のキリスト教の同志愛からスタートしたのだとすれば、この時代の史料を収めた本書が、日韓関係の新しい扉が開かれる機会となることを期待する。

書き手
徐正敏

ソ・ジョンミン=明治学院大学教授・同キリスト教研究所所長

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