伝道説教の一つのモデルがここに!
〈評者〉鷹澤匠
加藤常昭説教全集37
旧約聖書・福音書の説教
加藤常昭 著
四六判・430頁・定価4180円・教文館
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ここに収録された説教には、実際に語られた場所があり、日付があり、そして語る人がいて、聴いた人たちがいる。その一瞬にしか語り得ない言葉で紡ぎ出された説教が、22編収録されている。それらは、生々しいリアルな記録とも言える。
加藤常昭師の紹介はほとんどいらないであろう。東京神学大学の実践神学の元教授であり、一九九七年まで日本基督教団鎌倉雪ノ下教会の主任牧師を務められた。隠退後、説教塾の主宰としてその指導にあたる一方、全国各地の諸教会の特別伝道礼拝や講演会の講師を務めてこられた。そして本書は、隠退後に招かれた教会でおこなわれた説教だけが収められている。最も多いのが、国分寺教会でおこなわれた説教であるが、他にも東村山教会、木更津教会、松本東教会、ホーリネス那覇教会、そして私が仕える大和キリスト教会などで語られた説教が収められている。
それらの説教の中で、まず注目すべきものは、伝道礼拝における説教である。どこの教会でも、伝道礼拝のために、多くの祈りと準備の時間が献げられる。種まきの苦労である。そして、その日初めて礼拝堂に足を運んでくれた方々に、「どうか御言が届くように」と祈りを込めて、主と主が遣わしてくださった講師にすべてを託す。私も何度か、加藤師に特別伝道礼拝の説教を依頼したが、加藤師も、そのような教会の思いを充分わきまえた上で、説教を語ってくれた。その言葉は、配慮に満ち、また一人一人の魂を揺さぶる力強さを持っていた。そしてその迫力が、本書の説教からも充分伝わってくるのである。そしてそれらの説教は、既刊の説教集に収められた説教(つまり、師の現役時代に語った説教)とはまたひと味違った迫力があるのである。
一方で、本書には、大胆とも言える主題に踏み込んでいる説教も多くある。自死について、戒規について、そしてその教会の主任牧師の異動という教会の危機について語られた説教も収録されているのである。特に、キリスト者の自死に踏み込んでいる説教(250頁~)は、ぜひ読んでいただきたい。主イエスの「わが神、わが神、なぜわたし
をお見捨てになったのですか」というあの言葉に深く思いを寄せながら語られる説教は、圧巻の一言である。また、教会そして教団がおこなう戒規について触れている説教(193頁~)も、読んでいただきたい説教である。現在の教会が真剣に向き合わなければいけない課題を加藤師は正面から取り扱う。それは、日本の教会の行く末を心から
案じて祈っている説教だとも言える。
説教は、時と場所、語る人と聴く人たち、そこに聖霊がお働きになって起こる「神の出来事」だということを、本書を通し、改めて思うばかりである。
鷹澤匠
たかさわ・たくみ=大和キリスト教会牧師