悲しみの過去を手放し希望の未来へ

コロナ禍で苦しむ時代への神からの贈り物
〈評者〉千田次郎

 東日本大震災から10年。まだ復興の途上にある今、今度は世界中がコロナ禍で苦しんでいます。この本を読んで、「これこそ、コロナ禍で苦しむ人々への神からの贈り物だ」と思いました。この著者にしか書き得ない神からのメッセージがここに記されているからです。この苦しみをどのように受け止めて生き、乗り越え、希望の未来に進んでいけるのか。そのための神からのメッセージがこの本の中に凝縮していると思いました。
 東日本大震災で最も大きな被害を受けた教会は福島第一聖書バプテスト教会だと思います。被害に遭った教会は他にもありましたが、みな今までの地域に再建できました。しかし、福島第一聖書バプテスト教会は教会が立っていた地域自体が失われ、いまだに帰ることができないのです。
 1979年の春、福島第一聖書バプテスト教会の役員の方々が我が家に来られ、無牧になった教会を月に一度、土日に来て役員会と礼拝を導いていただきたいと要請され、1982年春までの三年間助言牧師として仕えさせていただきました。その時主から「この教会は可能性に満ちている」と告げるようにと示され、行くたびにこの言葉を告げました。無牧になり落胆していた教会員は当初、誰も信じませんでした。しかし二年半たった頃、雨後の筍のように、皆さんの口から「私たちの教会は可能性に満ちている」という言葉が溢れ出ました。これで私の使命は終わったと確信して、佐藤彰牧師を推薦させていただきました。
 やがて教会は同牧師を迎え、素晴らしく成長し、人口約一万人の田舎町で、同牧師が遣わされた時約20名だった聖徒の群れが、29年間で約200名の群れになっていきました。しかしその時に東日本大震災が襲い、一夜にして地域も教会も失われてしまったのです。
 震災の当日、千葉にいた佐藤牧師は教会員が一緒に避難しているとの情報を得、会津チャペルで約70名の教会員と合流しました。さらに米沢に、そして奥多摩福音の家へと導かれて安息の場を得、一年後の2012年4月に故郷から南へ約50キロのいわき市に戻り、教会を再建しました。その記録がこの本の前半です。
 この厳しい試練をどのように乗り越えることができたのか。それは聖書の福音に身を委ねることによってと教えられます。大震災からいわき市に戻るまでの一年間が大きな恵みの転換点になっていると記されます。何もかも失ってみて、むしろ決して失われない本質的なものが鮮明になり、何もかも失ったと思ったら神の愛が自分を覆っている、教会が消滅したと思ったら教会は残っており、より本質的な教会として脱皮している……。著者は「いのちが与えられていて、イエスを信じていれば完璧」と表現しています。
 佐藤牧師は大震災での経験をすぐコロナ禍への対応へと導き、コロナ禍を「黄金の冬ごもり」の安息の年、ヨベルの年と位置づけ、福音をさらに深く体験する機会ととらえています。大震災で、最悪の中に最善が備えられている恵みの体験をしました。なので、コロナ禍を大きく変換される未来に向けて進んでいくための旅支度の時としてとらえ、最悪の後には必ず最善が備えられていると信仰の告白をしています。主の証人として、福音、教会、遣わされている社会への再考を迫られる恵みの書です。

悲しみの過去を手放し希望の未来へ
佐藤彰著
四六判・80頁・定価990円・日本キリスト教団出版局
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書き手
千田次郎

ちだ・じろう=恵泉キリスト教会バルナバ牧師

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