三位一体論的なキリスト論
〈評者〉朝岡勝
神戸改革派神学校の企画による『改革派教義学』(全7巻+別巻)が、市川康則先生による第3巻『人間論』(2012年10月)に始まり、この度の牧田吉和先生による第4巻『キリスト論』をもって全巻完結したことを感謝し、御名をあがめます。ここに教会の伝道と形成を推し進めるための本格的な教義学が与えられたことは、日本の教会への主からの大きな励ましではないでしょうか。
著者は「あとがき」において本書執筆の基本姿勢を「できる限り正統的な神学的伝統を明らかにし、とりわけ歴史的改革派神学の遺産を重んじ」る、「オランダ改革派神学の神学的成果を取り入れる」、「神中心的な包括的視野の中でキリストとその救いの御業をとらえる」と述べておられます(323頁)。これに沿って序論ではキリスト論の教義学全体との関係とキリスト論内部の各論の関係が整理され、第一部の「人格論」では、三位一体論と並んでキリスト教神学の屋台骨であるキリスト二性一人格論が、古代以来のキリスト論の教理的形成に沿って論じられます。第二部の「状態論」ではキリストの謙卑と高挙という二つの「状態」(state)について、改革派神学の特色とも言える律法との関係を軸に論じられます。第三部の「御業論」では、これもまた改革派神学の特色である贖いの仲保者キリストの「預言者」、「祭司」、「王」としての三職(三重の職務)論が展開されています。
本シリーズが「改革派教義学」と銘打たれていることからも明らかなように、ここには極めて自覚的な教派的・神学的伝統に立った神学的営為が表現されています。しかもそれが狭隘な「教派性」を意味せず、三位一体論的に把握された「公同性」として表現されているところに、長年にわたり教義学を講じて来られた著者の強靱な神学的把握力と徹底した論理化が結晶しています。特に序論におけるカール・バルトのキリスト論の「変革された基本構造」の分析と把握、人格論における「史的イエス」論の評価や属性交流論に関するルター派神学との異同、御業論における「キリストの王権」の終末論的・宇宙論的展開と日本の教会における重要性の主張などに本書の意義が遺憾なく発揮されています。またいずれの議論も「関係性と区別性」、「全体性と個別性」が意識され、論述の背後に「充当」と「相互浸透・相互内在」という三位一体論的な思惟が働いていることから、本書を熟読することで読者は神学的思考の訓練を受けることができるでしょう。
最後に10年をかけて完結した『改革派教義学』全体についてひと言。キリスト論において主イエスの人格と御業が不可分なように、この主イエス・キリストに仕える者自身も生き方と働きを分かつことができません。著者である牧田先生(元校長)が今は高知で、市川先生(前校長)が今は千葉でそれぞれに伝道と牧会に励んでおられることが、本教義学の性格と意義をもっとも鮮明に示しています。思弁や抽象に走らず、知的満足や衒学の世界に陥らず、事柄に即して徹底的に考え抜くようにと絶えず叱咤され、教会を建て上げるための神学を情熱を込めて講じてくださった姿に圧倒されるような思いでひたすらノートを取った教室の光景を思い出しつつ、今もその姿を身をもって示してくださっている恩師方に言い尽くせぬ感謝を覚えています。
朝岡勝
あさおか・まさる=東京キリスト教学園理事長・学園長、市原平安教会牧師