
実家の整理をしていた時、文庫サイズの小さな聖書を見つけた。日本国際ギデオン協会が小学校の校門で配布していたものだ。ふだん読んでいたわけではない。時折読むようになったのは悩み多き思春期に入った頃だ。「折にかなう助け」の頁を開くと、「悲しみで心がふさぐ時」「友達に裏切られた時」といった項目別に読むべき聖句が示されている。切羽詰まっているから、すがるようにページを開く。意味が理解できたわけではないが、なぜか心が落ち着いた。ハウツー本ぽい読み方に思えるが、聖書の入口としてはこれでいいのだろう。実家を出てから読むことはなかったが、旅先のホテルで見かけると、これがきっかけで信仰をもつ人はいるのだろうかと思ったりした。
取材で高松の救世軍を訪ねたとき、ギデオン協会の会員で聖書を配布している方に出会った。協会は宗教法人ではないので布教のために配っているわけではないことや、配布先に応じていろんな種類の聖書があることなどうかがった。たとえば看護師用には機密保持について書かれたナイチンゲール誓詞が載っている。高齢者施設用もあるそうだ。ただ近年は学校で配布するのがむずかしく、とくにオウム真理教事件後は門を閉ざすようになったという。ほかの教会でも耳にしたが、オウムは宗教全体への信頼を揺るがせたという意味でも罪深い。
新聞で人生案内の回答者を務めているが、この人に信仰があればどれだけ助けになるかと思うことはたびたびある。そうは書けないが、悩み苦しみのほとんどは「折にかなう助け」に網羅されており、視点を転換させるきっかけにはなるはずだ。
ギデオンの聖書ですぐ教会に来る人はいないという。「冷酒と親の小言はあとで効くっていうけど、あれと同じやな。聖書もあとで効くんや」。高松の方の言葉を思い出し、我が身を振り返っている。
(さいしょう・はづき=ノンフィクションライター)
撮影/平瀬拓












