
本との出会いについて書くのは難しい。良書との出会いは数多く、これまで出会った多くの本によって今の自分があるのは間違いない。けれども、自分の人生を決定的に変えた本を一冊(あるいは二冊でも三冊でも)挙げよと言われると困ってしまう。今の自分はこれまで読んできた多数の本の総体によって形成されており、どれか一つの本が突出して影響しているわけではないからだ。
ただ、その本自体の内容や自分への思想的影響の多少とは別に、その本と出会った状況やタイミングによって、結果的に自分のその後の歩みを大きく変えるようになった――そんな本との出会いはある。ここでは私にとってそのような「触媒」的役割を果たした本について書いてみたい。
今から二〇年近く前のことになるが、米国留学の終わり近く、シカゴ郊外の神学校で博士論文の口頭試問を無事終えた私は、すぐにキャンパス内の家族寮に戻ることはせず、図書館に向かった。それまでの数年間、新約聖書のルカ文書にまつわる研究に明け暮れていた私は、ようやくその重荷から解放され、とにかく自分の専門以外の本を読みたいと思って、あてどなく書架の間を歩き回ったのである。
その時ふと目に留まったのが、メソジスト派の神学者トーマス・C・オーデンの著書 After Modernity . . . What? Agenda for Theology(Zondervan, 1992)であった。私は魅せられたようにその本を借り、自宅に持ち帰って貪るように読みふけった。これが私と復古正統主義(paleo-orthodoxy)との出会いであり、それまで自分が属するプロテスタント福音主義の信仰に漠然とした物足りなさを感じていた私が他教派の神学や霊性の伝統に興味を広げていく契機となった。そのきっかけを与えてくれたこの本との出会いに、私は今でも神に感謝している。
(やまざきらんさむ・かずひこ=聖契神学校教務主任)













