勉強は苦手、読書も苦手、難しい本はもっと苦手な私です。そんな私でも、忘れられない本との出会いが与えられていたことを、本稿の執筆に際して思い出すことができました。
小学4年生の頃、担任の先生が毎日読み聞かせをしてくださったのです。選ばれた本は『ルドルフとイッパイアッテナ』(斉藤洋作、杉浦範茂絵、講談社1987年)。改めて調べて見ると、274ページからなる割と分厚い児童文学書でした。おもしろいところまで進んでは、「今日はここまで、続きはまた明日」と言われて終わります。続きが楽しみでしかたなかったのを覚えています。
この本は、ルドルフという飼い猫が体験する、壮大な冒険を描いています。その冒険の中で、ルドルフは一匹の野良猫と出会うのです。名前を聞くと「イッパイアッテナ」と答えが返って来ました。野良猫は、「色々な名前がある」と言いたかったのですが、ルドルフは「イッパイアッテナ」を名前だと受け止め、そのまま二匹は友情を深めながら行動を共にするようになります。
先生は、挿絵の一つも見せることなく、ただひたすら朗読をされて、物語の中に、壮大な冒険に、私たち生徒を惹き込んで行きました。想像力を掻き立たてられ、豊かな情景が目の前に映し出されて来るような感覚を覚えました。
なぜ先生が、この本を私たちに読み聞かせてくださったのか、その理由を最後まで聞くことはありませんでした。しかし今は、そのねらいが分かるような気がします。
人生とはまさに冒険であり、明日何が起こるのか分からない、期待と不安の連続です。その不確実性の中を生きる時に大切なことは、絶えず目に見えないところにまで想像力を働かせること。見えないものを見ようとする力です。今、そう思えるのは、あの読み聞かせの時間があったからなのだと気付かされるのです。
(よしおか・やすたか=日本基督教団高槻日吉台教会牧師)