もう子どもではなくなりつつある娘たちに、一番心に残っている絵本は何?と聞いてみた。十七歳の長女は『はんぶんあげてね』(きのしたあつこ絵/文・日本キリスト教団出版局)、十一歳の次女は『こんとあき』(林明子作・福音館書店)だった。それは母の私には、あまり読んであげた記憶がないので意外だった。本が壊れるくらい読まされた『いないないばあ』や『あおちゃんときいろくん』でも『はらぺこあおむし』でも『うずらちゃんのかくれんぼ』でもなく、母の読み聞かせが面白すぎて一緒に沢山笑い転げた『だるまさん』シリーズや『おならうた』でもないのか……。母としてはちょっとがっかり。でも娘たちは、もう自分で読めるようになってから読んだであろうその絵本から、ちゃんとそのメッセージを受けとめて、それぞれ自分の一冊を大切にその心に刻んでいたのだ。そういえば、我が家には「はんぶん~」と題された絵本が複数ある。それは今の長女の生き方を形作っていく大切な要素になったのだと思う。女は、『こんとあき』の、こんがお風呂できれいに洗われたり、破れを縫われたりする場面が大好きなのだという。
私は、絵本を巡る娘たちの今を知って思う。コロナ禍にあって娘たちは、この世の不条理や醜さを経験させられ、生きるとは何か?を問われた。そして、政治家も教師も親たちさえもが、大人の論理でコロナに対処し、無理にこれを乗り越えさせようとしていることに傷ついているのではないか。娘たちは、絵本の中にある世界――隣の人に寄り添い、喜びも悲しみも分かち合い、担い合い共に生きる世界――が実際の世にも実現できると信じてやまない。そして、そのために生きようと、それを阻むものたち全てに必死に抗って、苦しみもがいているように思えてならない。
「あなたがたに平和があるように。」(ヨハネによる福音書二〇章)
篠田真紀子
しのだ・まきこ=日本基督教団浅草教会牧師