『本のひろば』は、毎月、キリスト教新刊書の批評と紹介を掲載しております。本購入の参考としてください。
2023年10月号
出会い・本・人
マンボウ先生との出会い(上田恵介)
特集
ルネサンス以前のキリスト教美術史を学ぶなら▼この三冊!(瀧口美香)
本・批評と紹介
- 『日本におけるキリスト教フェミニスト運動史』富坂キリスト教センター 編/山下明子、山口里子、大嶋果織、堀江有里、水島祥子、工藤万里江、藤原佐和子 著 (今給黎真弓)
- 『カルヴァンの救済の神学』春名純人 著 (市川康則)
- 『凛として生きる』平塚敬一 著 (森島豊)
- 『マルキオン』アドルフ・フォン・ハルナック 著/津田謙治 訳 (片柳榮一)
- 『わたしが「カルト」に?』齋藤篤、竹迫之 著/川島堅二 監修 (紀藤正樹)
- 『私は山に向かって目を上げる』水草修治 著 (牧田吉和)
- 『マルコ福音書をジックリと読む』山口里子 著 (橘秀紀)
- 『「敵」に居場所を与えるな』ルイ・ギグリオ 著/田尻潤子 訳 (川上直哉)
- 『グノーシス研究拾遺』大貫隆 著 (荻野弘之)
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編集室から
「私は紙の本を憎んでいた」─芥川賞受賞作『ハンチバック』(市川沙央著/文藝春秋)の中の一文だ。重度の身体障害を持つ当事者である著者が、自身とも重なる女性を主人公にその生活と感情を描き話題となった。一読し、障害の有無を問わず現代人が生きる上で襲われる虚しさの数々が胸に迫り、その中で揺らぐ生命の価値について考えさせられた。しかし何よりつくづくと感じたのは、この社会、特に日本社会がいかに健常者のみを前提として動いているかということだ。
特に作中で主人公が訴える、本と読書行為への批判が強く印象に残った。冒頭はそのくだりの一節だが、そこで彼女は「目が見える、本が持てる、ページがめくれる、読書姿勢が保てる、書店へ自由に買いに行ける」の五つを、読書が要する身体の「健常性」として挙げている。「出版界は健常者優位主義」とまで言い切るその痛烈さに驚くよりも納得してしまったのは、少なからず思い当たることがあったからだ。視力が落ちれば文字を追うのがつらくなるし、ハードカバーよりも軽く小さい文庫本のほうが手に取って扱いやすく感じる。こうした経験は障害のある人たちが抱える不便さの比ではないと思うが、紙の本には確かに物理的な制約がある。本に詰まっている情報と知識を全ての人に届けるためには、「本」そのものを根本から考え直す必要があることに気づかされた読書体験だった。
あと、小説の終盤にはエゼキエル書からの引用があり、現状への荒ぶる怒りを感じて筆者はちょっとスカッとしました(著者の真意はわかりませんが……)。(豊田)
予 告
本のひろば 2023年11月号
(書評)大沼隆著『困惑を超えるもの』、袴田康裕著『コリントの信徒への手紙二講解〔上〕』、山本通著『チョコレートのイギリス史』、前川裕『今さら聞けない!?キリスト教 古典としての新約聖書編』、ジョン・H・ウェスターホフ、W・H・ウィリモン著『ライフサイクルと信仰の成長』、上田光正著『カール・バルト入門』、平野克己他著『三要文深読 使徒信条』他