源流をたどりつつ教会の課題を指し示す
〈評者〉林 牧人
日本聖公会の聖職養成を担うウイリアムス神学館による叢書シリーズから、待望の「聖公会の歴史と教理編」が上梓された。著者は、日本聖公会司祭であり、ウイリアムス神学館教授を務め、聖公会全体の歴史と教理から現代の宣教課題に至るまで広い学識を持つ碩学、岩城聰師である。
「主教制を採りつつ信徒の同意も重視する〈実践の共同体〉である聖公会(アングリカン・コミュニオン)」と帯にある。この点一つとっても、聖公会を外から眺める者たちにとっては新鮮に映るのではないだろうか。分かったつもりになっていたものが揺さぶられ、さらに「その特徴的な思想「ヴィア・メディア(中間の道)」はいかに形成され実践されてきたのか」とくれば、いやがおうにも本書への期待は高まる。
本書は「歴史編」と「教理編」の二部構成でわかりやすく整理されている。
「歴史編」は、聖公会の源流たるブリテン島におけるキリスト教の始まりから丁寧に説き起こし、大陸とは異なる教会の文脈を念頭に置いた上で、その後のアングロ・サクソン伝道の端緒となった教皇グレゴリウスとカンタベリー大主教オーガスティンから、イングランド宗教改革に至る道筋とその後の経過(祈祷書の制定など)を整理しつつ示していく。ピューリタン革命やメソジストについても論じているが、これらとの関わりで、スコットランド聖公会とノンジュラー(臣従拒否者)について、また、それがアメリカ聖公会を誕生させたこと、イングランド教会が国教会としての立場は維持しつつも「いくつかの教派のひとつ」として社会全体、国民全体に奉仕する教会への転換を求められたこと、メソジストがイングランド教会そのものの覚醒を促し、すべての人の救いと人間性の回復に仕える姿勢を示したことなどを、聖公会の豊かさの源泉として指し示している。さらに、その後のオクスフォード運動から世界宣教に至るまでの道筋が、わかりやすく論じられている。
「教理編」では、教理の源泉としての「祈祷書」の有り様を聖公会の特質としてあげつつ「聖書と理性と伝統」の関わりについて、ピューリタンの「聖書至上主義」に対して「理性と教会の伝統」が強調されるとし、その中で「歴史的主教制」の下で「教会の公同性」がもつ「包括性」が「主教制と信徒代議員制の併存」に代表されるように、絶えず真理を求め続ける「ヴィア・メディア」の特質として顕在化し、アングロ・カトリシズムの勃興から宣教理解の拡大にもつながっていることを描き出す。
その他、現代の課題にも直接触れながら、単なる歴史と教理の解説に留まらず、教会の向かうべき方向性をも指し示している点も見逃せない。
評者は、合同教会たる日本基督教団においてメソジスト・ヘリテージを自覚的に担う群(更新伝道会)に属する者であるが、メソジストの母教会としての聖公会を知るということに留まらず、英国から始まり北米を主たる源流とする日本の福音主義教会全体が正しく自己認識をする上においても必読の書であると感じている。豊かな内容が詰まった本書は、聖公会の内外問わず、多くの方に手にして欲しい一冊である。
林牧人
はやし・まきと=日本基督教団西新井教会牧師、日本基督教団出版局『信徒の友』編集長