教会政治はなぜ大事か
〈評者〉澤 正幸
教会政治の神学
改革派の教会政治原理とは(大森講座XXXV)
吉岡契典著
四六判・101頁・定価1100円・新教出版社
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個人ではなく、ある教会の名前を冠した講座は、日本のキリスト教界だけでなく世界でもあまり聞かないように思う。日本キリスト教会大森教会が、教会建設七〇周年を記念して創設した大森講座から、三〇年以上に亘って毎年その記録が出版され続けていることは刮目に値する。永年神学教育に携わり、大森講座開設に尽力された平出亨大森教会前牧師の宿願であった、若い神学徒が学びと発表の機会を得ることがこの講座によって実現し、今日まで豊かな成果が生み出されてきたことを喜びたい。
巻末の三五回に及ぶ講座の題目を眺めても、今回の「教会政治の神学」という主題は稀有であることに気づかされる。著者の吉岡契典牧師は「なぜ教会政治は、神学的扱いの対象とみなされないか」その理由から講義を論じ始める。
「教会政治」とか、「教会総会」という言葉の後に「屋」を加えてみたらお判りだろう。およそ、教会における信仰的・霊的事柄に関することと、教会政治や、教会の組織・制度のことは次元を異にすると一般的に受け止められている。信仰や霊的事柄は神学の対象となりうるが、教会政治や組織・制度についてはこの世の常識で判断すれば足りると考える人が少なくないからである。
それに対して著者は、信仰や霊的事柄、すなわち信仰告白や教理だけでなく、教会政治、教会の制度を定める教会規程もまた、神学的考察なしではあり得ないことを論じる。それゆえ「教会政治の神学」という主題を掲げるこの講義の前半分は、「教会政治」とは何ではないか否定的側面を論じ、後半で、肯定的側面、すなわち「人間の言葉ではなく、神の言葉が権威となる」、「聖書的な教会規程に基づく教会政治」について論じる。
この講義の白眉は改革派教会の、長老主義という教会政治原理を論じる第4章であろう。特に日本ではあまり知られていないヨハネス・ア・ラスコの「ロンドン教会規程」について、その意義、版行過程とともに内容が紹介されている。著者が「カルヴァンに萌芽を見た改革派教会の長老主義教会政治は、ア・ラスコの実践において、原初的な形であるものの、実現を見た。そしてその職制、信徒の教会政治への参加、個人の権威によらない長老会による会議という集団的権威による政治の中に、長老主義教会政治の本質を見ることができるのではないか。そしてそれは、単なる長老主義教会政治の一例を表す特定の事例であることを超えて、後の時代とまた他の世界諸地域においても妥当する、長老主義教会政治に働く普遍的な神学をも描き出していると言えるのではないだろうか。」とア・ラスコの「ロンドン教会規程」を高く評価するのに、筆者は全面的に賛同する。
三〇年前「長老制とは何か」を論じて講筵に列ならせていただいた筆者にとって、それはその後の神学研究の出発点になったが、著者に望みたいのは、ぜひア・ラスコの「ロンドン教会規程」を本格的な研究対象として取り上げ、世界で妥当する教会政治をこの国の教会において実現する道を開いてくださることである。
澤正幸
さわ・まさゆき=日本キリスト教会福岡城南教会牧師