この訳語はなぜ変わったのか?聖書をより深く理解できる一冊
〈評者〉前川 裕
2018年12月に発行された『聖書 聖書協会共同訳』、皆さんはもうお持ちでしょうか。三十一年ぶりにゼロから翻訳された! という宣伝文句が気になりつつ、「どこが違うのかな?」と躊躇していらっしゃる方も多いかもしれません。また、実際に手に取られた方は、「新共同訳とどう違うのだろう?」と戸惑われたかもしれません。口語訳から新共同訳に変わった時ほど見た目の変化は少ないように感じるかもしれません。そのため、「新しい聖書いいよ!」と他の方に勧めにくい……、そう思った方もあるでしょうか。
そんな皆さんに朗報です! このたび出版された『ここが変わった!「聖書協会共同訳」新約編』は、聖書協会共同訳の意義と魅力を存分に教えてくれる一冊です。これは月刊誌『信徒の友』(日本キリスト教団出版局)の連載「新翻訳!『聖書 聖書協会共同訳』を読む」(2019年度)に基づいていますが、連載分についてもさらに説明を加え、また新しい項目を加えて、連載時から二倍以上の分量になっているとのことです(4頁)。連載を楽しまれていた方にも、改めてお読みいただく価値があることでしょう。さらに、同じく最近発刊された『聖書 新改訳2017』の本文も掲載され、比較できるのも興味深い点です。
三十一にわたる項目は、約半分が福音書、残りがそれ以外の文書から、満遍なく取り上げられています。最初は、新約聖書のまさに冒頭、マタイ一章一節「イエス・キリストの系図」についてです(10頁)。聖書協会共同訳でも「系図」という訳語ですが、「引照・注付き」版ではそこにaという記号が添えられています。これはなんだろう?と思って中を見ると、「別訳」として「創成の書」という訳語が載っています。これはどういうことなのだろう、と不思議に思われていた方もあることでしょう。この訳語について、本書で詳しく説明されています。「なるほど、そういうことか!」とお分かりになることでしょう。
口語訳でお馴染みの「東方の博士たち」(マタイ2章)が復活したことに気づかれた方は多いでしょう。そもそも原語マゴスはどのように訳されてきたのか、歴史的背景を踏まえつつ、どの訳語がふさわしいのか解説されています。訳語の「美しさ」と「正確さ」は聖書においてどちらが優先されるべきか、という執筆者の問いかけは、私たちがどのように聖書を読むべきかを改めて考えさせるものです。
神学的理解の深まりを踏まえた変更として、例えばローマ書3章25節の「贖いの座」(新共同訳「罪を償う供え物」)、同5章3~4節の「品格」(新共同訳「練達」)があります。馴染みのある単語ほど変更に抵抗を感じるものですが、なぜ訳語が変わったのか、その背景を知ると「なるほど」と感じられるのではないでしょうか。
本書では聖書協会共同訳における変更について、こういう点で良くなったという評価もあれば、こういう点で良くない、という批判もしています。読者はそれぞれの箇所について、自分はどちらの立場をとるかと考えることになるでしょう。まさにその時、聖書をより深く理解しているのです。聖書をさらに知りたくなる一冊、手頃な価格も魅力です。あらゆる方々にお勧めします。
ここが変わった!「聖書協会共同訳」新約編
浅野淳博・伊東寿泰・須藤伊知郎・辻 学・中野 実・廣石 望著
四六判・128頁・1320円(税込)・日本キリスト教団出版局
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前川 裕
まえかわ・ゆたか=関西学院大学理学部教員・宗教主事
- 2021年10月1日