伝道刷新へ―「分断」を超えて多様性への道を
〈評者〉清重尚弘
「これからの日本の教会の伝道」と題する講演で「伝道刷新」を語り、総花的伝道論ではなく、「急所を衝くこと」が必要と、神学者加藤常昭先生が語られたのは、2003年のことである。加えて、先生は、伝道評論ではなくて、極めて実際的な考察と提言によってのみ進展する、と喝破されている。
この度、一信徒の視点から、実体験に基づく伝道の実践分析と提言をまとめた書が世に出ることとなった。加藤先生の願った課題に対する一つの応答と言えようか。
著者は、大阪大学の工学部出身、最大手電機メーカーに就職、在職中に工学博士号を取得。定年後は、工場管理・改善のコンサルタントとして活躍。この間に転勤先の諸教会で役員として、延べ四十年ほど奉仕、その間に失敗も多くあったと述懐。起稿に着手して八年余、伝道覚醒、教会成長を祈りつつ長年の思索をまとめたのが本書である。書名の示す通り、役員会の勉強会のテキストとして格好の書として推薦したい。
三部構成の第1部は、開拓期の南房教会の役員会の進展を追う。役員会運営に採用されたのが著者の推奨する「デルファイ法」。企業等で広く援用されており、集団の意思「収斂」に有効な方法である。意見の「相違は受け入れつつ」一致しうる道を目指すもの。教会のような集団の意思決定に有効な方法であることを、実践のなかで見出したと言える。詳細は69頁以下に。ちなみに「デルファイ」の命名は、アポロン神殿の託宣で有名なギリシャ古代都市に由来する。
第2部 教会運営の基盤─マネジメントとリーダーシップ。教会運営には、日頃から円滑な人間関係を築く努力が重要であろう。摩擦や分断を生まない訓練として、交流分析などの素養が有益との具体的な示唆も。また、新任時点からの心構え、日常の自己訓練へと向かうガイダンス教程とともに、古今のリーダーの名言金言を東西を問わず参考に供する。
第3部 これからの日本伝道。著者が真情を吐露するこの第3部がこの書の圧巻である。
日本社会の構造変化は、人口減少、若者、高齢者、子供の貧困などが示すように、右下がり続きであり、これに並行するように、教勢も下降線をたどっている(142頁のグラフ)。加えて著者が注目するのは、プロテスタントのうち、教団以外は増加傾向が見られるのに、なんと、教団が停滞という事態である。これは、当事者としての心痛む問題なのである。
教団の伝道不振の原因は何か。さまざま議論があり、微妙な問題で、発言を躊躇うテーマと言えるが、あえて著者はここに踏み込んでいる。加藤先生の言葉を借りれば、こここそが敢えて「急所を衝く」ところなのかもしれない。
著者は言う。不振の要因は、信仰告白の論議より、政治的な立場による「分断」によって信徒、若者を教会から遠ざけることが、教会の成長を妨げる結果になっているのではないか(145頁以下)。四十年に近い〝教会派〟と〝社会派〟のせめぎ合いに起因する伝道低下であれば、「癒しの時」を超えて「伝道に燃える教会」へと「刷新」を目指したい、と述べる。
著者は言う。合同教会として出発した教団は、信仰告白に反しない範囲の多様性を許容しあって、一つとなって、地域に根差す存在たるを得るのではないか、と問いかけるのである。
「戦責告白」の受け止め方などについては、見解の分かれる難題、しかし避けては通れない。このような点も含めて、著者は教団の責任あるお立場の方々とも面談して教えを乞うた経緯がある。著者の真摯な態度の証しである。
復活の主の命に従って網を引き上げると、153匹もの大漁、なのに「網は破れていなかった」とある。網が復元されるようにと、伝道刷新を切望してやまない一信徒が心血を注いだこの書が、教派を超えて広く読まれるように、お勧めしたい。
実践 教会役員
マネジメントとリーダーシップ
坂本雄三郎著
A5判・193頁・定価1760円・リトン
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清重尚弘
きよしげ・なおひろ=九州ルーテル学院大学名誉学長