▼シリーズ この三冊!命の尊厳を見つめるならこの三冊!

 人や動物さらに広く「生きとし生けるすべての命の尊厳」を見つめようとするときに欠かせない前提条件は、聖書創世記に記されていることを受け入れることが重要であると考えています。
 すべては良きものとして創造され、幸せに生きるために命を与えてくださったという信仰に立つことです。特に人間は創造者のイメージに似せて創られました。人は生物学的な命だけではなく心や魂も与えられており、その全人性(wholeness)を尊い命として見つめることが必要です。しかし人が罪を犯したことにより命は限りあるものとなり、生きる上であらゆる苦難が起こるようになりました。病、貧困、差別、憎しみ、自然災害、戦争等、私たちの人生には苦しみばかりと思えるような現実があります。これらによって命の尊厳をただの理想論とし、目を背ける理由にしてはいけません。どんな状況であろうと命は尊いのです。
 私は現在、主に不適切な養育や虐待を受けた子どもたちに安全・安心の生活の場を提供しながら、心と魂の回復の支援をしています。また以前は世界の貧困地域や戦争や自然災害の被災地にある子どもたちの、命の保護と成長の支援に長く携わりました。それらの経験や学びと重ね合わせながら命の尊厳を考えるというテーマで三冊を選んでみました。

佐藤律子/編『種まく子供たち――小児がんを体験した七人の物語』


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『種まく子供たち──小児がんを体験した七人の物語』
・佐藤律子:編
・ポプラ社
・2001年刊
・四六判 215頁
・1,430円
※現在は販売しておりません。図書館のご利用をお薦めいたします。

 編者自身の息子さんが小児がんにより16歳で他界したことをきっかけに、同じような境遇にある子どもたちとご家族を応援しようと、他の当事者やご家族の方々に声をかけて執筆していただき編集した本です。この七人の物語には、病から回復して社会復帰した方のものや、他界した子たちのご家族のものが収められています。それほど長くない手記で短時間で読みやすい本です。小児がんは白血病に代表される血液のがんが多く、実は筆者も同じ血液のがんである悪性リンパ腫に罹患し闘病していた時に読んだ本なのです。この本を読もうと思った理由は、不遜にも自分より過酷な状況にある子どもたちの手記を読んで、自分を力づけるという思いからでした。しかし子どもたちが弱ってゆく自身の肉体や心に対して魂を燃やながら向き合った手記であり、生まれてきたことや育ててくれた親や友人への感謝に満ちている内容で、恐怖により肉体以上になえていたわが魂に新たな命を吹き込んでもらいました。
 手記には自身や愛しい我が子に突然襲い掛かった苦難に「何故自分が? 或いはわが子が?」と困惑し恨むことから、病を通して与えられた人生を受け入れるまでの過程が記されています。受験勉強に集中していた普通の高校生男子が突然発病し、壮絶な闘病生活の中で死と向き合い、自身の生きる意味を見出します。そして両親の前で以下のように宣言します。「感謝したいから生きのびよう。自分だけのいのちなら延命もむなしいと思うが、まわりの人やものに感謝するためなら長生きしてもいいかなと思う。」人の命は長短で幸不幸を見るのではなく、どれだけ感謝して生きたかが重要であると若い魂から教えられます。本全編を通して「ありがとう」のフレーズに溢れており、必ずや読む人に命への感謝の種をまいてくれると思います。

福井達雨/編 止揚学園園生/絵『にわとりさんはネ・・・』


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『にわとりさんはネ・・・』
・福井達雨:編
・止揚学園園生:絵
・偕成社
・1989年刊
・26×21cm 40頁
・1,320円

 本の著者である福井達雨氏は、一九六二年に重度の知的障害のある方々の施設として、滋賀県東近江市に止揚学園を創設しました。施設の名前の止揚とは、「ふたつの全く異なる者同士がぶつかり合い、より高い次元へ到達し、新しいものが生まれる」という哲学用語です。
 知能に重い障がいのある仲間と、障がいのないとされる仲間がお互いにぶつかり合い、認め合い、支え合って「共に生きる場」「帰ってくる家」をつくっていきたいと願って名付けられました。その止揚学園の日常生活で起こったある出来事を、園生の絵と福井氏の言葉で綴り絵本にしました。編集後記には、この物語の背景となったできごとが福井氏の解説と共に綴られていますが、このパートを最後まで読むことで初めて、ほのぼのとする絵本の中に込められた深いテーマに到達することができます。
 絵本にはニワトリのお世話をする主人公のミキオくんとお友達、そしてひよこから卵を産み始め三年が過ぎておばあちゃんになったニワトリのノンコの様子が素朴ですが明るいタッチで描かれています。絵本ですので、子どもの読み聞かせに最適なのは勿論ですが、ミキオくんによって命に対する二つの普遍的テーマが想起されていて、おとなも読むに値する一冊だと思います。
 第一のテーマは、人や動物の命の尊厳は、誰かの役に立つかどうかではなく、存在そのものであることをミキオくんの魂は教えます。現代はコスパ(コストパフォーマンス)やタイパ(タイムパフォーマンス)が重視される時代です。この価値観からすれば卵を産まなくなったノンコは、廃鶏処分になるのが当然と思えます。しかしミキオくんは、「ためだよ。ノンコだけどこかへやったら、いやだ」と素朴な言葉で友だちに訴えます。そして、どうしていけないのかという友達の問いに、このように返すのです。「たまごをよくうむにわとりは、たまごをうめなくなったにわとりのぶんまで、いっしょにたまごをうんでるんだ。」彼のこの言葉の中に第二のテーマを見ることができます。

 それは命というものは、助け合いや関わり合いを通してのみ幸福や満足を得られるということです。人間は一人単独では生きられません。強い者が弱い者を助け合うこと、できる人ができない人を助け合うことは上下関係ではなく、このことを通してお互いが孤独感や無力感に陥ることなく、幸福に生きられるよう神様は私たちを創造されたということです。苦しみの真っただ中にある方に対して不謹慎かもしれませんが〝災害時や戦時下の中ですべてを失った者に対し、残った僅かばかり物をも惜しみなく分け与える者があり、混乱の中で生まれる助け合いや連帯は、その地域に一時的ではあるがある種のユートピアを出現させる″と語ったある研究者の言葉がこのテーマの解説として説得力を持ちます。

木原活信/著『「弱さ」の向こうにあるもの――イエスの姿と福祉のこころ』


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『「弱さ」の向こうにあるもの──イエスの姿と福祉のこころ』
・木原活信:著
・いのちのことば社
・2015年刊
・B6判 192頁
・1,760円

 著者は同志社大学で教鞭をとられ、テレビやラジオにも出演されている社会福祉学の専門家です。この本は、「命の尊厳」を見つめ、その養護や回復の仕事に携わる福祉関係者やボランティアのために書かれた本といっても過言ではありません。なぜ、私たちは命を大切にしなければならないのか、人間の命の尊厳とは何かというシンプルで深い問いに、聖書を引用し丁寧に解説しています。特に本の題名にもなっている「弱さ」に焦点を当て、サマリアの女とイエスの対話から奉仕する側のあるべき姿勢を導き出している点は福祉専門家ならではの考察です。「水を飲ませてください(ヨハネ4・7)」とイエスからサマリアの女にお願いすることから始まる対話の意味は何だったのか。著者はこの問いに対し、社会的に差別を受けている弱者の女に、渇きという自身の弱った肉体状況をあえて現わせられたイエスの姿こそ、奉仕する側のあるべき姿勢であり、ともすれば上から目線になりがちな奉仕者に「自分は弱い者、愛せない者」という自己覚知を促してくれます。個人的には児童福祉というまったく未経験の分野で、しかも児童養護施設の園長という立場を託され、周りに未熟さや弱さを見せまいと肩を張って役割をこなしていた当時に読んだ本だったので、福祉に携わる者としてパラダイムシフトを与えていただきました。後半は、日本が抱える社会問題や福祉領域の課題、そして教会や奉仕する側の姿勢や技術的な領域まで関連聖書箇所の読み解きを挿みながら綴っています。福祉関係者のみならず教会奉仕者や教育関連、さらに国内外で被災者の支援活動をしている方々に是非読んでいただきたい本です。

書き手
高瀬一使徒

たかせ・かずしと:社会福祉法人三愛学園理事長、元ワールドビジョンジャパン職員

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