【特集】カルト問題を考えるなら▼この三冊!(齋藤篤)

 去る七月八日、安倍晋三元首相が銃弾に倒れました。そのことがきっかけとなり「旧・統一協会(現・世界平和統一家庭連合)」についての報道が連日なされるようになりました。
 今からちょうど三十年前の一九九二年、同様に世間を騒がせたのが、旧・統一協会による「合同結婚式」でした。あれから三十年、「まさか統一協会問題が続いていたなんて」という声を最近よく耳にします。
 今般の旧・統一協会問題を通じて、私たちは「カルト問題」について、改めて考える機会が与えられていると私は感じています。そこで、私たちはカルト問題についての基礎的な知識を持ち、偏見のない知見と理解を深めるために、参考となるような書籍を三冊、ご紹介したいと思います。

なぜカルト宗教は生まれるのか


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『なぜカルト宗教は生まれるのか』
・浅見定雄:著
・日本基督教団出版局
・1997年刊
・四六判248頁
・2,200円

 まず、ご紹介したい書籍として挙げることができるのは、『なぜカルト宗教は生まれるのか』(浅見定雄著、日本基督教団出版局)です。一九九七年に発行された書籍ですので、古典的と思われるかもしれませんが、書かれている内容は決して色あせてはおらず、私たちにカルトとは何かということを丁寧に伝えようとする著者の熱意が表れている一冊であると言えるでしょう。
 一九九五年、地下鉄サリン事件や坂本堤弁護士一家殺害事件などをはじめとする、いわゆる「オウム真理教事件」が日本中を震撼させました。そして、旧・オウム真理教こそ、カルト宗教の代名詞と言われるまでになりました。
 著者の浅見定雄氏は、旧約聖書学者として、東北学院大学で教鞭をとるなかにあって、旧・統一協会に入会していく大学生たちに憂慮し、カルト宗教対策・救済活動に取り組まれました。その実践活動を通して、カルト宗教とは何か、カルト宗教に魅了され、やがて餌食にされていく人々の心理とはどのようなものか、なぜカルト宗教が生まれるのかという、書籍のタイトルにあるテーマについて、浅見氏は旧・統一協会、旧・オウム真理教の事例を挙げながら解説します。

 いわゆるカルト宗教というものは、人間社会に破壊的な影響をもたらすと、浅見氏は強調します。単に人々の目から見て「奇異」に見えるからという理由で、カルト宗教と断定するのではなく、人間が本来持つべき人格を破壊し、精神的・身体的・経済的・社会的な人権というものを破壊する影響力を持つのがカルト宗教であると定義します。「破壊的カルト」と呼ばれるゆえんが、ここにあります。
 浅見氏は、一聖書学者として、カルト宗教は、聖書が本来伝えている「神の愛」というものを曲解し、人々を支配し、餌食とするために聖書を誤用・悪用していると、聖書が伝える「神の愛」の本質に沿って批判します。カルト問題対策とは、まさに愛の回復作業であり、カルトメンバー当人に向き合う家族も、愛の回復を目的とするところにこそ意味があることを力説します。

マインド・コントロールからの救出─愛する人を取り戻すために


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『マインド・コントロールからの救出 ─ 愛する人を取り戻すために』
・S・ハッサン:著
・中村周而、山本ゆかり:訳
・教文館
・2007年刊
・四六判381頁
・2,750円

 さて、カルト団体が人々を引き込むために用いる手法として「マインド・コントロール」があります。マインド・コントロールとは何かについては、一九九三年に浅見氏によって翻訳された『マインド・コントロールの恐怖』(S・ハッサン著、恒友出版)によって、日本に広く紹介されました。その著者であるハッサン氏によって出版された続編が『マインド・コントロールからの救出』(S・ハッサン著、中村周而・山本ゆかり訳、教文館)です。本書は、米国統一協会幹部であったハッサン氏が、自身の経験について理論的かつ実践的に解説した一冊です。
 まず、マインド・コントロールとは何かについて、その原理と特徴についての詳細な説明がなされ、続いて、脱会のための戦略的なプログラムについて、ハッサン氏の実践に基づいた解説が記されています。
 その際、信者当人の状況をよく見極めること、愛する者の脱会には、家族をはじめとする周囲がチームで取り組むこと、混雑し、一見矛盾するように見える、本人から発される数々の情報を整理すること、良質なコミュニケーションを構築し続けること、カルトメンバーが必ず感じることになる恐怖感を和らげること、本人が考える自由を与え、自分自身で物事を判断できるように促すことなど、カルトメンバーに向き合ううえで重要なポイントを、丁寧に解説しています。

 ハッサン氏は、本書のまとめとして「すべての人が協力して支援しなければならない」ことを強調します。あくまで、カルト問題は本人の自己責任の問題ではなく、周囲がいかに愛をもって寄り添い、本人の人間性回復のために協力することを惜しまず、あくまで肯定的に、支援の手を差し伸べ続けることができるかが、脱会に向けた大きな鍵を握っていることを訴えます。自由と寛容の世界こそが、カルトに陥った人々に対する偏見を無くし、マインド・コントロールからの解放に無くてはならないと本書を締めくくっています。

カルトからの脱会と回復のための手引き《改訂版》
─〈必ず光が見えてくる〉本人・家族・相談者の対話を続けるために


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カルトからの脱会と回復のための手引き《改訂版》
─〈必ず光が見えてくる〉本人・家族・相談者の対話を続けるために

・日本脱カルト協会:編
・遠見書房
・2014年刊
・四六判238頁
・2,090円

 では、私たちはカルト宗教にどのように向き合い、カルト宗教に囚われている、愛する家族や友人とどのように向き合えばよいのでしょうか。先行きが見えないなかで具体的な助けを提供する一冊として、『カルトからの脱会と回復のための手引き《改訂版》』(日本脱カルト協会編、遠見書房)を最後に紹介したいと思います。
 編者である日本脱カルト協会は、破壊的カルトの諸問題の研究を行い、その成果を発展・普及させることを目的としたネットワークです。心理学者、聖職者、臨床心理士、弁護士、精神科医、宗教社会学者、カウンセラー、ジャーナリスト、そして「議論ある団体」の元メンバーや家族等により構成され、一九九五年に「日本脱カルト研究会」として発足されました。旧・オウム真理教による地下鉄サリン事件が起き、教祖である麻原彰晃(本名=松本智津夫)氏が逮捕された年です。その後、カルトに向き合い続け、二〇〇四年には現名称に改称されて、今日に至ります。
 本書は、日本脱カルト協会に関わり続けた約二十名の方々の共著によって二〇〇九年に出版されました。これまで、具体的かつ実践的なカルト宗教対策をまとめた出版物がなく、実際にカルトメンバーに向き合ってきた家族が、五里霧中のなかで、まさに光明を見いだすきっかけになった一冊と言っても間違いないでしょう。

 カルト問題が、単なる「宗教問題」にとどまらず、心理学的・社会学的・法的な側面から、その道の専門家によって執筆され、一冊の書籍にまとめられたのは、まさに画期的なことでした。まえがきには「常備し」、「座右の書にし」、「役立つこと」を目的とした書籍であると書かれているとおり、以後、カルト問題対策の当事者や興味関心のある多くの方々に読み続けられている一冊です。
 この本の特徴として挙げられるのは、カルト問題にありがちな疑問や質問に対して、Q&A方式で説明されていることです。また、多くの事例が収録されていることも特筆すべき点です。カルトメンバーだった当人と、その家族が、どのような過程を経てカルト団体を脱会し、その後、どのようなプロセスを経て、マインド・コントロールから解放されていったか。脱会後の回復について、詳細に記されています。もちろん、ケースはそれぞれに違いますが、カルト問題が引き起こす傾向というものには共通性があり、カルト対策についての基本的な心構えを理解する大きな助けとなることでしょう。
 以上、紹介をしました三冊の他にも、カルト問題について考えることのできる書籍は多くありますし、今後も現在の旧・統一協会問題をはじめとする、カルト問題に関連する書籍が出版されていくことを期待したいと思います。決して、対岸の火事ではなく、私たちの生活のただ中に存在するカルトの根というものが、芽吹き、成長することのないように、これからも関心を抱き続けていくことが重要です。

書き手
齋藤篤

さいとう・あつし=日本基督教団仙台宮城野教会牧師、同東北教区センター・エマオ主事

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