『本のひろば』は、毎月、キリスト教新刊書の批評と紹介を掲載しております。本購入の参考としてください。
2013年6月号
2013年6月号
- 『10代と歩む 洗礼・堅信への道』大澤秀夫、筧信子他著、日本キリスト教団出版局―(対談:朴憲郁×平野克己)
- 『新島八重ものがたり』山下智子著、日本キリスト教団出版局―(坂本清音)
- 『ドイツ敬虔主義』ヨハネス・ヴァルマン著、日本キリスト教団出版局―(川端純四郎)
- 『神学は語る たとえ話』D.B.ガウラー著、日本キリスト教団出版局―(木原桂二)
- 『闇を変えて』武岡洋治著、キリスト新聞社―(岩橋常久)
- 『盲人の癒し・死人の復活』及川 信著、一麦出版社―(並木浩一)
- 『私の信仰Q&A』渡辺英俊著、ラキネット出版―(大倉一郎)
- 『原子力と人間』森野善右衛門著、キリスト新聞社―(小海 基)
- 『イノチを支える』黒鳥偉作、平山正実著、キリスト新聞社―(関 正勝)
- 『回想録』別府惠子著、キリスト新聞社―(増井志津代)
- 『徳富蘇峰の師友たち』本井康博著、教文館―(塩野和夫)
編集室から
〈日本最初の公害〉と言われる足尾銅山鉱毒問題に取り組み、生涯を鉱毒問題と治水事業に捧げた田中正造が亡くなってから今年でちょうど百年になる。私が彼のことを知ったのは小学校だったか中学校だったかは忘れたが、確か国語の教科書に掲載されていた、彼の、あるいは彼について書かれた文章によってである。もうかれこれ三十年近くも前のことなので、現行の教科書が彼のことを取り上げているかどうかは分からない。だが、
少なくとも世界に誇れる日本人としては、近隣諸国に対して威勢よく匹夫の勇を示す政治家よりは田中正造の方がずっとふさわしい、ということだけははっきりと言える。
よく知られているように彼は鉱毒問題についてその時の天皇に直訴しようとした。直訴は失敗に終わったが、それが引き金となって世論は沸騰し、政治家や言論人、学生や宗教人、社会主義者、国粋主義者など、思想・信条の違いを超えた支援活動が活発化する。折しも最近、内村鑑三と木下尚江についての研究(鄭玹汀著『天皇制国家と女性││日本キリスト教史における木下尚江』と、岩野祐介著『無教会としての教会││内村鑑
三における「個人・信仰共同体・社会」』)が相次いで刊行されたが、内村と木下も足尾銅山鉱毒問題に強い関心を寄せていた。
残念なことに田中の死後、鉱毒問題は社会の表舞台から消えてしまう。問題は解決していなかったので、その後も周辺地域では大洪水や激甚な旱魃が頻発した。二〇一一年三月一一日には決壊した堆積場から鉱毒汚染物質が渡良瀬川に流下した。
田中正造は死んだ。しかし、「真の文明は 山を荒らさず 川を荒らさず 村を破らず 人を殺さざるべし」という彼の言葉は今も存在感を示している。有名作家の最新刊のように百万部も売れる本をつくることは私にとっては至難の業である。ならば細々とでもよいからせめて田中正造が残した足跡のように百年たっても内容が色あせない本を世に出したいものだ。 (中川)