齋藤 篤、竹迫 之 著/川島堅二 監修 わたしが「カルト」に?(紀藤正樹)

最前線の専門家による処方箋
有益な入門書かつ実務書
〈評者〉紀藤正樹


わたしが「カルト」に?
ゆがんだ支配はすぐそばに

齋藤 篤、竹迫 之著
川島堅二監修
四六判・136頁・定価1650円・日本キリスト教団出版局
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 昨年7月8日の安倍元首相襲撃事件はパンドラの箱を開けた。事件の背景にある世界平和統一家庭連合(統一協会)には、霊感商法や高額献金などの資金獲得活動、正体を隠した伝道活動、合同結婚式への参加勧誘、宗教2世への児童虐待、貧困などの家族被害、政治への浸透と癒着、海外への資金の持ち出しなど多数の問題があること、そして諸外国でも問題が共通し各国が相応の対策を取っていることなどが大きく報道された。
 その結果判明したことは、日本だけがカルト対策に遅れをとっているという現実であった。
 ものみの塔聖書冊子(エホバの証人)信者の両親に輸血を拒否され10歳の子どもが死亡するという痛ましい事件が起きたのは1985年、統一協会信者の霊感商法問題が最初に大きく報道されたのも1980年代である。日本は1995年には地下鉄サリン事件も経験した。世界を震撼させたこの事件を受け、米上院議会は1995年10月に議会報告書を作成し、フランスも同年12月に国民議会報告書をまとめ2001年には反セクト法を成立させたが、日本ではサリン事件がなぜ起きたのかの検証すら国会で行わず、そのためカルト問題に対する抜本的な対策を講じず現在に至っている。

 オウム真理教、詐欺で摘発された明覚寺(1995年)、法の華三法行(1999年)はいずれも正体を隠した伝道や経済活動をおこなった統一協会の手口を模倣していたが、こうした模倣先は次々と摘発された。しかしサリン事件当時から、既にカルト的な宗教団体と評されてきた統一協会は放置され、結果、霊感商法や2世被害など、この間に甚大な被害が生まれた。
 いわゆる「空白の30年」に、なぜ統一協会やエホバの証人の問題を解決できなかったのか。本書は、このような日本の状況に、最前線に立つ専門家からのカルト問題への処方箋ともいえる待望の書である。
 日本基督教団の齋藤篤、竹迫之両牧師がその大部分を執筆した。齊藤牧師は元エホバの証人、竹迫牧師は元統一協会の信者として、自身の体験を踏まえ被害者救済を実働でおこなう現役の牧師であり、日本基督教団カルト問題連絡会の世話人の立場にある。
 本書は、両牧師のカルト被害者救済に関わる動機から始まり(プロローグ)、カルト問題の実相(Ⅰ部)、カルトの意味や定義(Ⅱ部第1章、2章)、カルトの問題と切り離して語ることはできないマインド・コントロールとその後遺症の問題(同第3章)、カルト対策と課題(Ⅲ部)まで、カルトの問題をわかりやすく解説する。監修の東北学院大学教授の川島牧師は1995年にオウム真理教事件の反省を受け設立された日本脱カルト協会の創設時のメンバーの一人であり、同協会の顧問をつとめる。
 三者が結集して編まれた本書はカルト問題に現に苦しむ被害者やその家族、カルト問題に触れた経験がない一般の人々、そしてカルト対策に取り組む政府や実務関係者にとり、きわめて有益な入門書であり具体的な実務書である。必携の書として読んでほしい。

書き手
紀藤正樹

きとう・まさき=弁護士、『マインド・コントロール』(アスコム)著者

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