カール・バルト研究  絶対的逆説を指さす神学

バルト神学の核心を解明する
〈評者〉〉寺園喜基

カール・バルト研究
絶対的逆説を指さす神学

宇都宮輝夫著

A5判・314頁・本体3600円+ 税・新教出版社

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 本著はバルト神学の理解に徹し、バルト神学とは何か、その核心を解明する。著者はバルトのテキストと格闘している。膨大な著書・論文と幅広い思考の展開をグリップして、「一体バルト神学とは何か」という問題の立て方をする。これは勇気を必要とする作業であり、賛同できる。そしてサブタイトルにあるように、それは「イエスはキリストである」という「絶対的逆説を指す神学」だと言い、これがまた福音の本質である、とする。

第1章は聖書解釈学を切り口として、第2章はバルト神学の連続性の問題を切り口として、弁証法の本質と類比の本質を解明することを通して、第3章はバルトの近代神学との批判的対論を通して、バルト神学は真の人・真の神という絶対的逆説を指さしていると論じる。テーマに関する著作を手掛かりにしつつ、しかしバルト神学の全体を見渡しながら、中心の一点に集中していく論述は迫力が感じられ、バルト神学についての研究書というよりも、バルトと共に神学の中心を神学している、ということが言えると思う。
 
第1章は、バルトの『ローマ書』と『教会教義学』第3章をテキストにして、バルトの聖書解釈を論じる。ここでは、バルトを論述するというよりも、近代自由主義神学の聖書解釈と対決しつつ、バルトと共に聖書のメッセージに迫るという姿勢がみられる。そして聖書解釈(神の言葉・人間の言葉)にはキリスト論(真の神・真の人間)が根底において結び付いていることを示す。

 バルトの約五〇年に亘る神学作業を弁証法的神学から類比論的神学への転換と捉えたり、日本では北森嘉蔵や大木英夫のようにブルンナーの影響を受けて「神中心の神学」から「人間中心の神学」への転換と捉えたりする観方がある。しかし著者は第2章で、初期の『ローマ書』から一九三〇年頃までを前期、それ以後を後期としながらも、バルト神学の一貫性を主張する。それは、バルト神学において弁証法とは何か、類比とは何かをそれぞれ解明することによって、「弁証法と類比は、キリスト論を媒介にして結びつく」(二三四頁)という結論を導くことによってである。「類比は出来事である」(一七七頁)という指摘と共にその論述は優れている。また神学と状況との関連をめぐって日本の代表的バルト研究者である小川圭治との対論は興味深く、状況が神学を規定するのではなくその反対であることを、正当にも指摘している。

 第3章は、バルトの近代神学の見方を論じている。前の章とは違う角度からであるが、バルト神学の近代主義批判として理解できる。バルト神学の全体像からその中心へと迫る論述、円周から中心への迫りはこの論文の目指すところであり、興味深くまた成功している。だからこそ、キリスト論の中心から展開された「契約│創造│和解│神の国」という神の大いなる歴史を豊かに描いたバルトの『教会教義学』の偉大さをも、逆方向から照射していると言えよう。

書き手
寺園喜基

てらぞの・よしき=九州大学名誉教授

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