並木浩一 著 『ヨブ記注解』  (及川 信)

「自由」への招き
〈評者〉及川 信

 長いこと待ち望まれて来た著者による『ヨブ記注解』が、遂に出版されたことを感謝したい。
 著者は「まえがき」でこう述べている。
 「ヨブ記は思想的にも文学的にも独特な魅力に満ちている。……ヨブ記は世界と人間の根本問題と格闘して叫びたい人間を熱中させる作品である。神もヨブも、世界と人間の根本問題に決して妥協しない」(三頁)。
 ある程度聖書に親しんでいる者であれば、誰だってヨブ記は知っているだろう。しかし、私たちがヨブ記について「知っている」ことは、本当なのか。
 この注解を読んでいると、ヨブの人となり、考え方、感じ方などがこちらに迫ってくる。エリファズをはじめとした三人の友人たちとエリフが何を感じ、何を言っているのか、そして、神様が何故あのように語ったのかが分かるように感じる。実に面白いし刺激的だ。
 ヨブ記の難解な詩文から内容を汲み取り、翻訳(解釈)することは至難の業であるに違いない。いわゆる逐語訳では、言葉に込められている「思想」は伝えられない。著者の解釈の一つ一つは、辞書的な意味を解説した「注解」的でありつつ、信仰的な解釈が込められた「講解」的でもある(あとがき参照)。参考文献の中に、「文学・文芸学・思想」に関する文献が多く入っていることからも分かるように、著者はヨブ記を紀元前に記された古代の文書として読みつつ、現代に生きている我々への問いかけとしても読んでいる。これがヨブ記との対話を深める上で非常に有益であることは言うまでもない。時折「ノート」が入っており、サタンとかミシュパート(公義)といった重要語句を解説してくれるのも有り難い。
 ヨブ記と聞けば、誰しも「苦難」を思い浮かべるだろう。
ヨブに与えられた問題は「理由が分からない」という苦しみである。この苦難は何のために与えられているのか。神様は間違っているのか、全能ではないのか、無能ではないのか。真剣に生きていれば考えざるを得ない。この問題について、著者は「自由」の観点からこう述べる。
 「神がヨブにご自身の行為について弁解をする時には、ご自身の自由を失う。『苦難に理由あり』と知ったヨブもまた、神を『理由なしに』『信ずる』自由を失うであろう。神に抗議する自由もヨブには確保されないであろう。イエスもまた、十字架につけられるという理由を知らされないまま、『御心ならば』と祈りを経て、神に服従した。ヨブは当然のことながら、神の御子が神から見放されたという究極の不条理を知らずに、神の扱いの不条理を嘆いたので
ある」(三三五頁)。そして、本書は以下の言葉で終わる。「『東の子ら』(一・三)をユーラシア大陸の東の外れにまで拡張して読むとしても、それは読者の自由である」(四五五頁)。この「自由」を行使できなければ、ヨブ記は我々への問いかけにはなり得ない。
 繰り返そう。ヨブ記は「世界と人間の根本問題に決して妥協しない」(三頁)。この書と対話しつつ、神や人間を問い、思索を深めることは、聖書を読むうえで極めて有益だと思う。本書を助けとして、多くの方々にヨブ記と取り組んでほしいと願っている。

ヨブ記注解
並木浩一 著
A5判・482頁・定価6600円(税込)・日本キリスト教団出版局
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書き手
及川信

おいかわ・しん= 日本キリスト教団山梨教会牧師

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