ICU伝道献身者の会編 われら主の僕(藤本満)

伝道者を数多く輩出してきた秘密
〈評者〉藤本 満


われら主の僕
リベラルアーツの森で育まれ

ICU伝道献身者の会編
四六判・270頁・定価2310円・新教出版社
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 ICUは、サンフランシスコ条約が発効された翌一九五三年、戦争により「空洞化した日本人の新たな精神的支柱として、世界平和に貢献するキリスト教的教養が日本に欠かせない」(4頁)との意識から献学され、以来七〇年を迎えた。本書には「伝道献身した」故人を含む七〇名もの卒業生が寄稿している。ブルンナーをはじめ教師の文章も掲載されている。
 本書を読んでいると同窓会に招かれたように感じる。武蔵野の森で大学生活を送り、以来、各方面で主の僕として労している各人が当時を振り返り、真剣に学生と向き合ってくれた教師たちに感謝し、レベルの高い学びと人格形成、二度と来ない大学時代に思いを馳せている。

森に育てられた豊かさ

 評者が興味深かったのは青野太潮の寄稿であった。彼は高校時代に交換留学先のアメリカで、聖書のことばの絶対的な正しさを盾に、それに反する知性をことごとく批判する保守的なホストファミリーの影響を受けた。青野はICU入学後、学内で同じような保守的信仰に立つ友人と伝道集会を開き、証しのパンフレットを配ったという。その頑な姿勢が「ICUの森の中で……音を立てて瓦解していった」(101頁)。偏狭で排他的とも言える信仰は、大学で体験した霊的・理性的・学問的授業に太刀打ちできなかったという思い出である。
 保守的な背景で育った者がICUに入学し、学びと教師との人格的な交わりを通して、より豊かな信仰に開かれていくことを証しする者は少なくない。梅津裕美は、入学して間もない自分が「自分の信仰の正当性を主張したい一心で突っ張っていた」(181頁)と述懐し、河野克也もICUの「C」にアンビバレントでありながら、それに魅了されていったことを振り返る(218頁)。
 学生紛争時代、教師も学生も傷つく中で、当時パリから戻った森有正の特別講義「アブラハムの生涯」に耳を傾けた安積力也も同じであった。その森有正の文章も掲載されている(129頁)。文明のタイプにアシミレイション(同化)とアヴァンテュール(冒険)があるとしたら、安積は「『本当のこと』を求める人生は必然的に『冒険』となる」ことをICU時代に学んだという(106頁)。

リベラルアーツ

 教師である武田清子は、今日の大学教育が「偏差値、専門知識や技術重視の中で、教養教育(リベラルアーツの教育)の不在の結果」(172頁)大学のみならず社会も変容していく危機を語っている。並木浩一は、「ICUのリベラルアーツにとって本質的な重要事は、教員が学生を独立した人格として尊重し、関わりを持つこと」(249頁)であり、そのような校風が七〇年の歴史を創り上げてきたと述べる。ICUもたしかに大学紛争で教師と学生の双方が深い傷を負った。それは本書の様々なところに記されているが、にもかかわらず、人格の尊重という点でやはり日本の大学の中でずば抜けている。本書の七〇名の証しは、「リベラルアーツICUで学んだ伝道献身者たちの働きを検証する」(182頁)という編者の意図を見事に実現している。

一人ひとりの誠意

 英国の病院でチャプレンをしていたウィリアムズ郁子は、あるときICUで英文学を講じていた齋藤和明氏を迎えた。彼はアーネスト・ゴードン著『クワイ河収容所』の訳者である。ウィリアムズは齋藤に、自分は日本人として英国に滞在しながら元戦争捕虜の人たちに何も出来ていないことを嘆いたという。すると齋藤から、「今なさっていることをそのまま続けてください」「イギリス社会で出会われる一人ひとりに誠意を込めて接し、信頼に基づく関係をコツコツと築いってください」との励ましを受けたという(185頁)。
 卒業生の寄稿はすべてそのような証しなのである。

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