吉田裕子著 海のかなたに行き着こうとも、そこに(辻 哲子)

劇的な話の史実の背後にある“不思議”
〈評者〉辻 哲子

海のかなたに行き着こうとも、そこに
〝不思議〟を訪ねる旅、東北の隠れキリシタンの里へ

吉田裕子著
四六判・264頁・定価1650円・ヨベル
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 興味深く一気に読んでしまいました。何と表現力豊かで、昔の事柄をよく記憶されておられ、米川村に起こった出来事を辿ることができました。
 特に後藤寿庵のことは、多く学ぶことができました。私が一九四五年に水沢市に(現の奥州市)疎開しておりましたので、興味深く用水路のことを想い出され、彼の活動に関心を持っておりました。それが米川村に彼の墓碑が「墓地発見さる」と明らかにされるとは、長く長く隠れキリシタンの歴史が米川村にあったこと。〝クリスマス〟の開催の不思議から、歴史をひもとかれたこと。感心して読みました。同時に一五〇〇名も村民が集まったことなど。あの時代を私も懐かしく想い出されます。
 それは、辻 宣道が焼津で開拓伝道をしていた頃のクリスマス(一九五二年)、市の公会堂を借りてクリスマスをして、私はオルガンを弾くために、東神大(東京神学大学)在学中でしたが駆けつけました。やはり静岡英和女学院の生徒をはじめ数百名も集まったことを想い出します。
 米川新聞やその他の資料を詳しくお調べになり、当時の歴史的な情況と、日常生活の体験を事細かく述べられ、当時の情景が浮かんで参りました。全く忘れていた、サイカチで身体を洗ったことなど、私は疎開したからこそ体験できたことを想い出しました。私は戦後、一九四五年九月に水沢に進駐軍が来て、父がその通訳をしたため、石けんには不自由しなかったこと、また米国にいる叔母家族から、次々と衣類や石けん、食品が贈られてきましたので、東京の奥沢で被災を受けたにも拘わらず、親戚一同に支えられて、あまり苦労せず過ごしたことなども想い出されました。
 沼倉たまき先生をはじめ、良き人々に出逢えた豊かな恵みが伝わってきました。その背後には、主なる神の〝不思議〟なお働きがあることと、その〝不思議〟を尋ね求めて行く旅路は、私もご一緒に歩いているような思いに駆られました。
 鈴木景子さんに出逢われたのも、素晴らしいですね。
 最後に、及川甚三郎氏のこと、勉強になりました。これを加えたことは成功でした。
 カナダに明治のはじめに開拓されて米川村の人々を助けたこと、『密航船水安丸』新田次郎著を参考にされたとしても、登場人物の会話にかれました。劇的な話の史実の背後に、やはりキリストを信ずる信仰の〝不思議〟が伝わってきました。
 本当に良書が出版されて嬉しいです。また吉田裕子さんに素晴らしい文才があることも、改めて知りました。
 また、「前書き」に川上直哉先生を紹介され、多くの読者が与えられることを思いました。私も、ヨベルの安田さんから『被災後の日常から』川上直哉著を贈られて、はじめて先生のご著書を知りました。またお働きも……。
 誠におめでとうございます。ご著書が沢山の方たちに読まれますようにお祈りしています。
 以上が、本書を頂いたときの吉田さんへの私信でしたが、更めて書評となると次のことを紹介したいと思います。この〝不思議〟を訪ねる旅は、
 一、みちのくに隠れキリシタンの知られざる殉教地及び歴史がたくさんあること。
 二、個人史であると共に、みちのくのキリスト教史を語っていること。
 三、明治の頃、みちのくの米川村出身にすぐれたキリスト者がいたこと。
 その一人に及川甚三郎が、凶作による困窮の村民を救うためカナダに渡り悪戦苦闘した話しは感動的です。本書は、隠れた地の塩、世の光であるキリスト者たちの証しです。

書き手
辻 哲子

つじ・てつこ=日本基督教団隠退教師

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