テゼ共同体と出会って  闇の中に、消えぬ火かがやく

新しい始まり
〈評者〉植松 功

テゼ共同体と出会って
闇の中に、消えぬ火かがやく

上垣 勝 著
A5判・240頁・本体1500円+ 税・サンパウロ

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フランスにあるエキュメニカルな修道会「テゼ共同体(コミュニティー)」については、創設者ブラザー・ロジェの著作の翻訳本やその歴史・背景を紹介する書籍などが日本でもすでに出版されています。しかしこの『テゼ共同体と出会って』は、それらと異なり、一牧師が自らの信仰の葛藤の只中でテゼと出会い、どのように新たに歩み出したかを綴っています。そしてそれはテゼの霊性やその働きを理解するヒントを豊かに提供しています。

 まず私の心を打ったのは、著者がその信仰の葛藤をありのまま誠実に記しておられること。「もし一九七〇年代にテゼ共同体に出会わなければ、私はとっくに牧師の仕事に力尽き、早々と燃えつき症候群になって消え去っていたでしょう」と記してこの著作は始まります。自らの祈りのありように、これでいいのかと苦しみ問い、「牧師となりながら真の確信も愛もなく、この人生をどのように生きればいいのか、孤独の中でそれを探していた」と。著者のこの告白にどれだけ私は慰められたことか。

 そしてテゼの単純素朴な歌と祈りと沈黙、それらが著者を次第に自由で喜びに溢れた信仰へと導く過程が語られます。内なる闇こそが主イエスの宿られるところであり、自分が理解した「わずかなもの」で生き始めればよいというブラザー・ロジェの言葉に背中を押されて著者は何回も新たに歩き祈り始めます。

 なぜ無数の青年たちがテゼを訪れ続けるのか、なぜこの共同体はその最初から難民や戦争孤児を招き入れ、今も世界の苦悩の現実と具体的に関わり続けるのか、これらの問いに著者が自らの道程を重ねながら答えようとするところにこの著作の魅力があります。まるで、著者の探求の歩みという横糸と、テゼの霊性とその歩みという縦糸で美しい織物が織られていくよう。

 祈りと生活を単純素朴にさせることについての考察も私に豊かなヒントをもたらしました。それは平和の源であると同時に、冒険への招きであり、そこには隔ての垣根を壊す力が宿り、無数の人々の苦悩に近づく扉があることを、著者は自らの祈りの実践をとおして私たちに示します。

 そのような祈りを育む大きな要因としてテゼの歌が紹介されています。「土の器に神の息が吹き込まれる」と。聖書や教父の言葉を短く繰り返し歌うテゼの歌ですが、福音の単純な言葉を繰り返す中に、神と一つになり人々と一つになってゆく豊かさがあることが示されます。

 さらに特記すべきことは、今まであまり日本では紹介されることのなかった現在の院長ブラザー・アロイスの言葉が多く紹介されていることです。次代を担う青年たちにひたすら聴くという奉仕に徹しつづけるブラザーたちの姿に、これからの青年司牧へのヒントがあるように思います。

 テゼとの出会いを経て定期的に開催されるようになった著者の教会の祈りの集いの描写も、著者の新たな始まりの現場報告のようで、この著作をユニークなものにしています。また、最終章では、テゼを訪ねるための具体的な情報が記され、関心のある読者には大きな助けになるはずです。

 ブログの連載記事をもとに書かれたためか、各項が短くまとめられ、とても読みやすい構成になっています。

書き手
植松 功

うえまつ・いさお=黙想と祈りの集い準備会世話人

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