ただ一つの契約の 弧のもとで  ユダヤ人問題の神学的省察

日本で最初の本格的な「キリスト教的イスラエル神学」
〈評者〉畠山保男

ただ一つの契約の弧のもとで
ユダヤ人問題の神学的省察

武田武長著
四六判・239頁・本体2400円+ 税・新教出版社

教文館AmazonBIBLE HOUSE書店一覧

 本書の出版により、日本の教会と神学に、避けては通れない問題提起をしてくださったことを、著者に深く感謝したい。本書は、日本で最初の本格的な「キリスト教的イスラエル神学」の研究書である。イスラエルが主題となるとき、聖書は、「神の恵みの選び」(カール・バルト)と契約と神の民について語る。そしてユダヤ教は、「一度として破棄されていないイスラルとの神の唯一の契約」を主張し続けてきた。著者は、「ただ一つの契約の弧のもとで」という書名を本書に与えることで、このユダヤ教の主張に同意しているのである。ところがキリスト教会は真逆のことを主張してきた。それがすなわち「神学的反ユダヤ主義」である。その出発点は、ユダヤ人による「神の子殺害説」である。それゆえにユダヤ人は神の審きの下にあり(神の子殺害説 刑罰説)、神とユダヤ人との契約は廃棄され、今やキリスト教会こそが神の約束と契約の真正の相続人であり(廃嫡説)、律法による古き〈肉のイスラエル〉なるユダヤ人とシナゴーグは、今や福音による〈新しき霊のイスラエル〉なるキリスト教会によって永劫に代替されてしまった(代替説)、というものである(「序章 キリスト者問題/教会問題としてのユダヤ人問題」一五頁以下)。この神学的反ユダヤ主義に合点し相槌を打つ人は皆、その説に毒されていることになる。本書はそういう人たちへの解毒剤の役割を担っている。それゆえ本書は、専門家だけではなく、イスラエルについて、神の恵みと選びと契約につ
いて、神の民について、改めて自分の信仰において問う全ての人に、再考を促す良い機会となる書物である。

 序章で著者は、教会史における反ユダヤ主義の歴史を短く記し、シュトゥットガルト罪責告白にユダヤ人への罪責の言及がないことを批判的に記した後、引用した反ユダヤ主義について述べている。そして著者は、ドイツ・ラインラント州教会の総会決議「キリスト者とユダヤ人の関係の刷新について」における「ホロコーストへの教会の罪責」を共に告白している。それは、終章の「レオ・ベックに学ぶ」の第三節「ラインラント州教会の総会決議(一九八〇年)と共にレオ・ベックの問いかけに答える」に明らかである。第一章「〈排他的対立〉としての〈イスラエルと教会〉」と第二章「中間的考察」において、R・ブルトマンのユダヤ人理解の問題とK・バルトのそれとが対比的に描かれる。第三章「神に選ばれた一つの共同体の二つの形態としてのイスラエルと教会」において、バルトの四つのテキストにおけるイスラエル理解が明かされる。第四章では、「ボンヘッファーのユダヤ人理解」の変遷が解明される。こうしてイスラエル理解をめぐる「バルトとボンヘッファーの神学の線と方向」が明らかになる。そして第五章「〈アウシュヴィッツ以後の神学〉におけるユダヤ人理解」において、第二次世界大戦後、著者の指導教授F-W・マルクヴァルトに至る神学者のユダヤ教との対話とその理解が語られる。その第二節「キリスト教的ユダヤ人論/イスラエル論の基準としてのローマ九│一一章」において、パウロの「イスラエル神学の章」のテキストを、教会のように過去形ではなく現在形で読む意味、イスラエル、神の選び、神の恵み(ローマ九・四ー五)、神の召しの意味が、新たに示されるのである。

書き手
畠山保男

はたけやま・やすお=元関西学院大学教員

関連記事

  1. マルティン・ルター著 金子晴勇訳 主はわたしの羊飼い 詩編1編、8編、23編の講解(大島征二)

  2. 大宮有博著 アメリカ・キリスト教入門(藤本満)

  3. CATS日本キリスト教会大信仰問答(ビジュアル版)

  4. 小友 聡著 旧約聖書と教会 今、旧約聖書を読み解く(及川 信)

  5. A・トムソン 著/持田鋼一郎 訳 アシジのフランシスコの生涯 (山北宣久)

  6. 住谷翠 著 雅歌の説教 (小友聡)

書店に問い合わせる

  • 812-0013 福岡県福岡市博多区博多駅東1-11-15 博多駅東口ビル4F
  • ☎ 03-6855-8811(自動音声案内)続けて2-7
  • HP https://www.wlpm.or.jp/shop/
  • 880-0905 宮崎県宮崎市中村西2-10-20-101
  • ☎ 0985-53-5505
  • FAX 0985-53-5505
  • 900-0002 沖縄県那覇市曙3-6-24
  • ☎ 098-868-4406
  • FAX 098-860-3813
  • HP https://biblos-do.jp
Loading...

分類