新約聖書註解Ⅻ テモテ・テトス・フィレモン書

カルヴァンの教会論・職制理解を豊かに示す
〈評者〉飯田 仰

 カルヴァンの聖書註解が再び堀江知己師によって邦訳されたのは大変喜ばしいことである。堀江師は「歴史神学研究会」でお会いする度に、新たな翻訳の原稿を提示される。翻訳家・研究者として大変誠実なお方である。翻訳の速さは素晴らしく、まるで機械的に量産されるようである。その仕事量にはいつも驚かされる。そして今回の翻訳も読み易さにおいて卓越している。
 この新約註解書はいわゆる牧会書簡を扱っているもので、カルヴァンの教会論及び職制理解が豊かに綴られている。教会形成とは何かについて考察する上で、極めて重要な内容であると言ってよい。特に改革派教会の伝統を汲む教会・教団においては、重要な一冊であると言える。
 しかし、本書を読み進めていく内に意外性を感じる読者もいるかもしれない。訳者もあとがきで触れているように、「カルヴァンは、長老、監督などといった概念を、極めて相対的かつ相関的に捉えて」(329頁)おり、後代の職制理解における名称の解説にはほとんど言及していない。非具体的な指導者概念として記していることに、読者は戸惑いさえ覚えるかもしれない。 本註解においても、常に聖書の御言葉に忠実であろうとするカルヴァンの真摯な思いが如実に表出されている。『キリスト教綱要』で展開していく神学的考察の基盤となる基礎工事のような役割を本書は担っている。カルヴァンの聖書理解と解釈、そして解説は、時代的な限界を感じる部分もあるとは言え、現代の我々に対しても多くの示唆を教示していると言えるだろう。
 時代的な距離感を感じる部分として顕著に現れるのは、本書がテモテやテトスを扱っているためであると考えられる。女性教職に対する言及の部分に違和感を覚える読者もおられるだろう。一見、女性蔑視とも取られてしまうような表現は(59、119頁など)、現代の我々にとって受け入れ難いものかもしれない。また、フィレモンで扱われる奴隷制度に対する言及においても、現代の我々とは到底関係のない問題として処理されてしまうかもしれない。しかし、訳者も述べているが、それが自らの罪深さを見ることにつながると捉えるならば(331頁)、本書の有益さを十分に感じ取ることに繋がるであろう。
 カルヴァンの著作はどれをとっても大変驚愕させられることが多い。本書を通してもその想いは依然として読者に残る。本書でもカルヴァンの古代教父理解の深(しんすい)は顕在である。周知の通り、カルヴァンは聖書に精通していただけでなく、古代教父の著作内容や教会史における異端についても熟知していた。その様子が本書を通しても垣間見られる。特にクリュソストモスの引用とその解釈理解に対するカルヴァンの説明は、その豊富な知的蓄積の様子を物語っている。ただ、ほとんどクリュソストモスに賛同していない点は興味深い(73頁は例外)。
 また、カルヴァンが聖霊と聖霊の働きを非常に重視する点に研究者たちは以前から着目しているが、その点、本書の聖書に関する記述(226−227頁)などで読み解くことができるであろう。
 本書を読み込むことによって、我々の心は更に鼓舞されると思う。そして教会形成を目指し、教会にて御言葉を語り続ける使命に益々駆り立てられるであろう。特に説教者たちに宝愛される一冊となることは間違いない。

新約聖書註解Ⅻ
テモテ・テトス・フィレモン書

ジャン・カルヴァン著
堀江知己訳
A5判・338頁・定価6380円(上製)/4730円(並製)・新教出版社
教文館AmazonBIBLE HOUSE書店一覧
書き手
飯田仰

いいだ・あおぐ=日本同盟基督教団国外宣教総主事

関連記事

  1. 飯 謙ほか著 聖書協会共同訳 詩編をよむために(荒瀬牧彦)

  2. 熊田凡子著 日本におけるキリスト教保育思想の継承(片山知子)

  3. 関野和寛 著 『天国なんてどこにもないよ』 (伊藤 悟)

  4. ただ一つの契約の 弧のもとで  ユダヤ人問題の神学的省察

  5. 水草修治 著 私は山に向かって目を上げる(牧田吉和)

  6. 押田成人著作選集2 世界の神秘伝承との交わり 九月会議

書店に問い合わせる

  • 812-0013 福岡県福岡市博多区博多駅東1-11-15 博多駅東口ビル4F
  • ☎ 03-6855-8811(自動音声案内)続けて2-7
  • HP https://www.wlpm.or.jp/shop/
  • 880-0905 宮崎県宮崎市中村西2-10-20-101
  • ☎ 0985-53-5505
  • FAX 0985-53-5505
  • 900-0002 沖縄県那覇市曙3-6-24
  • ☎ 098-868-4406
  • FAX 098-860-3813
  • HP https://biblos-do.jp
Loading...

分類