信仰生活ガイド 信じる生き方

旬のものに、よみがえる
〈評者〉上林順一郎

 出版された多くの本の内、半分は売れない。売れた本の内、半分は読まれない。読まれた本の内、半分は再び読まれることはない」。ヨーロッパで語られる言葉だそうです。もしこれが事実だとすれば、本の運命とはなんと儚く、哀しいものかと言わざるを得ません。
 それはともかく、昨今の出版業界は危機的状況にあるようです。若者の活字離れ、パソコンやスマートフォンで本や漫画が読める、書店で買わなくてもネットですぐに手に入る、書店も本の販売数が減り、価格も高くなり、ますます売れなくなる……こうした苦しい事情があるようです。
 これは一般書籍の話ですが、キリスト教書の状況はさらに深刻です。読者となる教会の信徒数は年々減少し、かつて盛んだった教会での神学読書会や勉強会も少なくなり、さらに買い手である教職者や神学生の数も減少する一方です。しかも一般書籍に比べて価格が高すぎるなどなど、いまの状況が好転する気配は見えません。
 同じ出版物でも雑誌はもっと悲惨です。時代の流れや社会状況、時の話題に応えていかなければ見向きもされません。雑誌はいうなれば「旬のもの」で、旬が過ぎれば再び読まれることなどまずないのです。
 こうした雑誌の宿命(?)に挑戦したのが日本キリスト教団出版局の「信仰生活ガイド」と題された五巻のシリーズ本です。各巻の内容の多くは月刊誌『信徒の友』にかつて掲載され、好評であったものから選別され、さらに「書き下ろし」を加えて編集されています。言ってみれば読み捨てられることの多い雑誌の文章をもう一度「旬のものに、よみがえらせる」という冒険(?)に挑んだのです。
 今般、そのシリーズの最終巻が「信じる生き方」と題して発行されました。編者の経堂緑岡教会牧師の増田琴さんは「まえがき」で書いています。「信じる生き方は豊かです(中略)信じる生き方が豊かなのは、『伴走者』の存在があるからだと思います。『伴走者』はある時には隣人であり、ある時には書物でもあります」
 さて本書は第一部「神と共に歩む」、第二部「魂に向き合う」、第三部「隣人と生きる」をテーマとしてかつて10年の間に書かれた内の13編の再録と書き下ろし一編が収録されています。一編一編の内容について紹介する余裕はありませんが、いま読んでもこの時代、この社会に生きている私たちに生き生きと語りかけている文書です。まさに「旬のものに、よみがえった」本です。
 特に今回発行された「信じる生き方」は、新型コロナの感染が収束を見せないなかで孤独や差別に苦しみながら毎日を過ごしている人々、老いの日々の辛さを嘆いている人々、愛する人を亡くして悲嘆にくれている人々、生きる意義を見出せず一人で重荷を背負っている人々の「伴走者」となり、その苦しみを一緒に担いながら走ってくれる励ましと慰めの書といえます。
 とはいっても出版不況の波はなお続くことでしょう。しかし、モノは考えよう、ホンは作りようです。「出版された本の内、半分も売れる! 売れた本の内、半分も読まれる! 読まれた本の内、半分も再び読まれる!」
 再び読まれる機会の少なかった文章が「旬のものに読みがえる、いや甦る」未来はきっと明るい!?

信仰生活ガイド 信じる生き方
深田未来生、左近豊、奥田知志、月本昭男他著
増田琴編
四六判・128頁・定価1430円・日本キリスト教団出版局
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書き手
上林順一郎

かんばやし・じゅんいちろう=日本基督教団教師

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