関西学院大学神学部編 宣教とパンデミック(越川弘英)

コロナ禍の今こそ、教会と礼拝を問おう!
〈評者〉越川弘英

関西学院大学 神学部ブックレット14
宣教とパンデミック

関西学院大学神学部編
A5判・182頁・定価1540円・キリスト新聞社
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 本書は昨年2月に行われた、関西学院大学神学部・第55回神学セミナーの内容をまとめたブックレットである。本書には一昨年以来のコロナ禍における教会の状況や経験の報告、その神学的実践的な考察が含まれており、時宜に適った企画であると言える。内容は、「主題講演」(中道基夫)、「現場報告」(家山華子、高木愛、松本あずさ、赤松真希)、「神学講演」(小田部進一)、「パネルディスカッション」(橋本裕樹、橋本かおり、古澤桃代)、「礼拝学演習報告」(金省延、金仁恤)、「あとがき」という構成である(敬称略)。
 現役の牧師たちによる報告やパネルディスカッションは、予想だにしなかったコロナ禍に直面したそれぞれの教会の困惑や労苦、そうした状況に対する創意工夫や新たな実践を伝えており、強い共感を覚えるとともに、有益な示唆を与えられた。
 私見によれば、本書の白眉と言うべきは、小田部進一の神学講演「パンデミックと宗教改革 《新しい生活》を求める精神の動きに注目して」である。このタイトルを最初に見たとき、コロナ禍という喫緊の問題に対し、なんと迂遠なテーマかと感じたが(小田部先生、ごめん!)、実際に読んでみると、ここに取り上げられている五百年前のパンデミック(ペスト禍)のもとでのルターの主張と行動が、まさしく今現在の教会とキリスト者(とりわけ牧会者)に対する貴重な神学的かつ実践的示唆であることを実感した。信仰義認、全信徒祭司主義、キリスト者の自由、隣人愛といったルターの思想とパンデミックがどのように結びつくか、感染症対策に関する合理的で柔軟な発想、教会共同体にとってこうした災厄が有する意味など、まさに現在の問題を先取りしたかのようだ。講演者は「コロナ禍以前から水面下で存在してきた関係性喪失時代の問題がより深刻化しないか心配です」(51頁)と語り、コロナ禍が教会に問う問題の本質を信仰と愛による共同体の形成という課題に方向づけている。これは是非とも読むべき論考である。
 学生の実践報告も興味深い。私が担当する同志社大学神学部(大学院)でも二〇二一年度にオンライン礼拝を作成するゼミを行ったが、両者に通底する可能性や課題も感じた。今風の「Z世代」の特徴かも知れないが、ネットなどの技術的なことがらに対する学生の知識や能力にはいつも驚かされる。だがしかし神学部なのだ。この時代にこそ、「礼拝とは何か」「教会とは何か」という主題を徹底して学び、また論じた学生の意見をもっと聞きたかった。
 学生に限らないが、オンライン礼拝などの教会のICT化に関する楽観的すぎる主張に対して、私はいくつも疑問を持っている。こうした疑問が私個人の世代的な限界から来るものなのか、教会・礼拝・キリスト教信仰の本質に抵触する疑問なのか。自らのこうした課題を考える上でも本書は示唆的であった。

書き手
越川弘英

こしかわ・ひろひで=同志社大学教授

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