ルターの心を生きる

現代の私たちにルターの真髄をわかりやすく
〈評者〉江口再起

 充実した読後感をもって本書を閉じた。ルターを知り深く学ぶために、またとない本だと思った。すべての人に薦めたい。
 ルター、ルターと言うけれど、なぜルターが大切かがわかる。ルターは、ルター派だけの遺産ではない。ルターを通して、キリスト教信仰の真髄、骨太な全体がわかるのである。しかも本書は、その骨太な骨格の現代における意味、それがよくわかるのである。
 内容を紹介したい。本書はとてもうまく構成されていて、ルター神学にとって最も大事なテーマをいくつか選び、その一つ一つのテーマに沿って、何本かの論考をまとめて配列してある。したがって、ルター神学のあるテーマについて知りたいと思ったら、その何本かの論考を読めばいい。スッキリ頭と心に入ってくる。
 さて、そのテーマである。以下のようなテーマ(項目)が並んでいる。「ルターの精神」、「人間観」、「教会論」、「全信徒祭司性」、「キリスト者の自由」、「礼拝論・賛美歌」、「社会倫理」、「小教理問答」、「アウグスブルク信仰告白」、「エキュメニカルな到達点」。全部で十項目。必要にして十分。
 本書は全体で413ページ。けっこう厚い。ではポイントはどこか。私のみるところ、やはりポイントは、ルターの福音理解にあると思う。引用しよう。《…「恵によってのみ(sola gratia)」とルターは言ったのです。その恵みを受け取るのが信仰だから「信仰を通してのみ(sola fide)」と言ったのです。》(15頁)。であるからルター風に言えば《受動的な恵み、能動的な生き方》(45頁)ができるのである。ここである。そして更に言えば、そうした信仰生活ができるのは、ルターが「神の前」と「人の前」という視座を持ちえたからだと、本書全篇を通して江藤氏は力説する。その通りだ、と思う。
 ところで、先程、本書はけっこうボリュームがあると書いたが、安心してほしい。とてもわかりやすい叙述である。衒学的なところがない。恐らく多くが講演会やセミナーでの講演発題の原稿を元にしているということもあろうが、江藤氏の人柄もあらわれているのだろう。要するに明確で、しかも柔らかな言葉で綴られているので読みやすい。テーマごとにまとめられているので部分部分を事典風に読むこともできるし、また通読すればルターの全体像、いやキリスト教の真髄がわかるのである。
 最後に少し個人的なことも書きたくなった。実は江藤氏と私は、熊本で育ち、小中のころから知っていたし、高校は同窓である。そして日本ルーテル神学校に入学した時、気がつけば私の横に彼がいた。というわけで、一緒にルーテル教会の教職按手を受け、そして牧師として一緒に仕事をした。教会や神学をめぐる問題で見解がいつも一致していたわけではない。論争のようなこともあったと思う。ところが本書を読んで驚いた。結局、一致していたではないか。違いなど二次的、三次的なことだ。なぜか。答えは簡単。ルター神学の基本線が共通の土台となっているからだ。いやキリスト教信仰の土台が同じなのだ。当たり前のことであった。それだけに、江藤氏が本書を出版されたことが、とても嬉しい。一人でも多くの人が、本書を手にしてくれることを願う。

ルターの心を生きる
江藤直純著
A5判・413頁・3300円(税込)・リトン
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書き手
江口再起

えぐち・さいき=ルター研究所所長

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