旧約聖書註解 創世記Ⅱ

興味尽きない カルヴァンの読み 〈評者〉吉田 隆

旧約聖書註解創世記

旧約聖書註解 創世記Ⅱ
J・カルヴァン著
堀江知己訳
A5判・398頁・並製・本体4500円+ 税・新教出版社 なお上製函入版は本体6000円
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 一九八四年に『創世記Ⅰ』が渡辺信夫訳で出版されて以来、実に三十六年ぶりの快挙である。
 ご高齢になった渡辺先生には何としても『創世記Ⅱ』を仕上げていただきたいと、訳稿の整理や清書など手伝えることがあれば何でもしますと新教出版社に申し出たのが数年前のことだった。ところが、先生は全く翻訳に手を付けておられないとのこと。話を私に振られたのは、やぶ蛇であった。そうでなくとも能力も時間も足りない私では、どうにもならない。神学校の休み毎に少しずつ進めてみたものの、蝸牛のようにしか進まない。
 堀江知己氏が引き受けてくださるとの知らせを出版社から受けたのは、そんな時であった。堀江氏と言えば、オリゲネス『イザヤ書説教』(日本キリスト教団出版局)やカルヴァン『アモス書講義』(新教出版社)を、次々と翻訳出版されている旧約聖書解釈史の新進気鋭の研究者である。私は(比喩としては全く不適切だが)あたかも詩編歌を自作しようとして数篇で挫折したカルヴァンがべザの才能を見出して歓喜したように、文字通り諸手を挙げて喜んだ。
 堀江氏は驚くようなスピードで訳業を成し遂げられた。渡辺氏の堅実な訳文とは一味違う自由闊達な訳文で、生き生きとしたカルヴァンの文章になっている。奇しくも渡辺先生が召されたこの年、意気消沈していた私たちに、神は若くて有能なカルヴァン研究者をお加えくださった。これを機に、カルヴァンの聖書註解の残された翻訳事業が、再び動き始めることを心から願う者である。
 さて、カルヴァンの『創世記註解』の出版事情や意義については本書「訳者あとがき」をご覧いただくことにして、ここでは同書を手にとって読む楽しみを少しだけ御紹介したい。創世記後半の註解は、ヤコブの〝選び〟やヨセフ物語の〝摂理〟信仰といった神学的関心もさることながら、混沌とした族長物語に重ねて語られるカルヴァンのコメントが実に興味深いからである。たとえば(括弧内は註解箇所)――
*カルヴァン時代の「花嫁衣裳」とは?(二四・六)
*騙されたイサクと牧師の仕事の関係?(二七・二一)
*ラケルの水汲みと家庭教育(二九・四)
*族長たちを真似てはいけないことは?(二九・三〇)
*リスク管理の優先順位とは?(三二・二三)
*若者教育と結婚の指導(三四・一、四)
*いつの時代でも権力者が罹る病とは?(三四・二一)
*カルヴァン流・老いの迎え方(三五・二八)
*カルヴァンの〝夢判断〟?(三七・五)
*自分の容姿について(三九・六)
*余りに妻の言いなりになっている夫は…(三九・一九)
*〝誕生日パーティー〟は是か非か?(四〇・一九)
*「先の見えない状況」での二つの行動(四三・一一)
*ユダヤ人に寛大すぎるカルヴァン?(四九・一〇)
*宗教団体は人に厳しすぎる?(五〇・一七)
――これらの答えは、本書を直接手にとってのお楽しみ!
 カルヴァンにとって族長物語とは、世俗のただ中で、同じ神に仕えて生きる〝キリスト教会〟の物語に他ならない。それ故、そこに描かれていることは、まさにカルヴァン時代の(そして今日の!)教会の姿なのだ。    
(よしだ・たかし=神戸改革派神学校校長)

書き手
吉田隆

よしだ・たかし=神戸改革派神学校校長

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