加藤常昭説教全集35 新約聖書書簡の説教1

若い日の説教と隠退後の説教を収録
〈評者〉藤掛順一

加藤常昭説教全集35
新約聖書書簡の説教1

加藤常昭著
四六判・430頁・本体3700円+税・教文館
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 『新約聖書書簡の説教1』である本書には、ローマの信徒への手紙から9篇、コリントの信徒への手紙2から13篇の説教が収められている。多くは、加藤常昭先生が鎌倉雪ノ下教会の牧師を辞任されてから、さまざまな教会の伝道礼拝に招かれて語られた説教であるが、主任牧師不在の時期に横浜指路教会で語られた説教も三篇入っている。新たな牧師(評者)の招聘が決議された翌週に、「これは新しくこの教会に遣わされるキリストの大使、キリストの全権大使を迎える決心をしたということであります」と、牧師を迎えることの意味を語ってくださった。これは書評を引き受けないわけにはいかない。
 本書が大変興味深いのは、そのような比較的最近の説教だけでなく、鎌倉雪ノ下教会に着任した直後の説教も何篇か含まれていることである。本書に収められている内、最も最近の説教は2019年10月に語られたものだが、最も古いものは1969年11月である。そこには五十年の隔たりがある。加藤常昭先生の五十年前と現在の説教を読み比べることができる本書は、「加藤常昭研究」においても重要な資料だと言えるだろう。
 五十年前と現在の説教を読み比べると、もちろんさまざまな違いが感じられる。しかしその違いは基本的には、置かれている立場や状況の違いによることである。一つの教会の責任を負う牧師の立場を離れ、いろいろな教会において伝道の応援のために語った説教と、四十代始めの牧師として、着任したばかりの教会において、その教会の課題と取り組みつつ語った説教との違いである。「あとがき」に語られているように、加藤先生着任当時の鎌倉雪ノ下教会は、分裂による混乱と痛みの中にあった。加えて、教授を務めておられた東京神学大学において、そして日本基督教団において「紛争」が起こった。それらの深い苦悩の中で先生は「うつ病」と診断されるまでになった。「説教者の人生で最も深い悩みの時でした」とある。その苦悩の中でコリントの信徒への手紙二の講解説教を語ることにおいて、「四方から苦しめられても行き詰まらず、途方に暮れても失望せず」と語るパウロの手紙が、加藤先生自身に真実な慰めと癒しを与え、鎌倉雪ノ下教会のその後の発展の礎が据えられたのである。それらの説教の迫力に触れることができることが本書の最大の魅力である。
 聖書の言葉、キリストの福音に組み込まれ、包み込まれ、巻き込まれて生かされている中で語られた、まことに自由な、説教の言葉である。五十年前の苦悩の中でも、牧師を隠退し、高齢となって多くの病を負い、同労者であり最愛の妻であったさゆり先生を喪った悲しみの中にあられる現在もそれは全く変わらない。我々後進の者はこのことをこそ学び、受け継ぐべきだろう。キリストの福音の出来事にほんとうに包み込まれて生きるなら、我々も同じ言葉を語っていくことができるはずである。

書き手
藤掛順一

ふじかけ・じゅんいち=日本基督教団横浜指路教会牧師

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