加藤常昭説教全集33 コリントの信徒への手紙二講話

教会への確かな信頼はどこから生まれるのか?
〈評者〉菊池美穂子

 ここにわたしの牧会者がいる。読み終えた時、そう思った。
 神学校を卒業して五年目に入った。教会に遣わされ、教会のこと、自分自身のこと、神学生時代には思い至ることのなかったさまざまな思いがある。あなたの思いを聞いてくれる人はいるだろうか。
 この「コリントの信徒への手紙二」には、人間としてのパウロのありのままの思いが語られる。自分の身をさらけ出すようにして語られたパウロの言葉が、この著者を通して届けられたことで、わたしを牧会してくれた。まるでパウロと著者と、二人の伝道者に牧会を受けているように。わたしたちはこうやって神の恵みに生かされたとでも語っているように、伝道者としての生きざまを見せてくれる。
 パウロが置かれた状況は、決して単純なものではなかった。自分が心注いで造ったコリントの教会から信頼を失い、使徒としての自分の立場を疑われる中、自分は信用できる伝道者なのか、自分のことについて手紙を書かなければならないのである。
 自分だったら教会にも自分にも失望してしまいそうなところで、パウロの言葉は、わたしの想像を見事に裏切ってくれる。パウロは、自分に難問を投げかけるコリントの教会が聖なる教会であることを疑わず、あなたがたを誇りにしていると、厚い信頼を寄せる。そして自分自身についても、落胆しません、呻きつつも、いつも心強いと言うのである。
 パウロの言葉は、コリントの教会に対しても、そして自分自身に対しても光に満ちている。それは、イエス・キリストがあなたがたの内におられる、パウロはここにしっかり立っているからだ。
 今から十数年前、まだわたしが信徒の頃、この著者の説教に出会い、教会に対する明るい確かなまなざしと慰めはどこから来るのかと、この説教者の言葉の響きに心躍った。それは今も変わらない。信じる者の確かさと明るさがある。「あとがき」にはこう記されていた。
 「この手紙は、とてもユニークです。いくつかの手紙の断片を綴り合わせたものですが、パウロのパーソナリティがいきいきと語り出されており、このような文章が聖書の一文書として愛読されてきたことは神の恵みとしか言いようがありません。私も喜んでさまざまな機会に説いてまいりました。またひとりのキリスト者、ひとりの牧師として、いくたびこの手紙を開き、パウロと対話し、慰められてきたことであろうかと思います。92歳の誕生日を迎えて、改めて感謝しています。長い人生の同労者でありましたパウロの言葉を読むと、自分のこれまでの歩みをまざまざと
思い起こすのです」(445頁)。
 この説教者の言葉の明るい響きと確かさ、教会と自分への愛のまなざし、それは、パウロの言葉を聞き続けたこと、そして、この御言葉を共に聴いて生きた教会の存在があったのだ。この説教者の秘密をまた一つ知ることができた。わたしも、わたしの良き牧会者としてこの本を手元におきつつ、教会で神の恵みに生かされたいと願う。

加藤常昭説教全集33
コリントの信徒への手紙二講話

加藤常昭著
四六判・448頁・定価4180円・教文館
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書き手
菊池美穂子

きくち・みほこ=キリスト品川教会副牧師

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