神の恵みの水路 現代に問いかける「ローマの信徒への手紙」

何より面白く、ときに激しく訴えかける
〈評者〉佐藤司郎

 本書は、一口でいえば、エネルギーに溢れた聖書講話とでもいったらよいでしょうか。何より面白く、ときに激しく訴えかけ、しかも教えられるところの多い本です。
 著者の佐々木栄悦牧師は、10年勤めたキリスト教学校の教師を今春定年でおやめになったあと、ふたたび教会の現場に戻り、現在、郷里に近い宮城県北部の教会で、牧師として働いておられます。
 この本は、著者によれば、もともとキリスト教学校の高校三年生の「聖書」の時間に語られたものがベースになっており、その中のいくつかは教会でも時々に語られ、練り直され、内容が整えられたものです。
 最初の聞き手となった高校生は「皆素直ないい子ばかり」(6頁)だったとはいえ、ほとんどキリスト教を知らない若者たち、彼らに「福音」を語るのに、どんなにか神経を使ったかと思います。本書でローマの信徒への手紙全16章を一章ずつ取り上げ、テーマを一つに絞り、自由に展開するその手際は見事です。
 著者は「はしがき」で特色を出そうとして心がけたことを二つあげています。一つは「説教集でもなく、講義でもなく、語りかけるようなわかりやすい言葉を使うこと」、もう一つは「東北から発信する言葉として特に東日本大震災などを常に念頭に置くこと」です。
 この二つとも十分果たされています。ここで一つ一つ上げることはできませんが、ご自分の人生経験、キリスト者としての信仰の歩み、そうしたことを交えながら、いまを生きるわれわれ人間の問題が取り上げられ、それとの関連で聖書の言葉がわかりやすく解き明かされます。
 心がけた二つ目のことは、本書の最大の特色といってよいものです。「東日本大震災がわたしを変えました。見た目の生活は以前とあまり変わっていないようでも、心に思うこと感じることが変わりました。あの出来事を経験して、まるで何事もなかったように聖書を読んでいていいのだろうかと自問する中から、生徒たちと一緒に聖書から学んだことをまとめたものがこの小さな本です」(6頁)。原発事故の問題(28、122頁他)や大川小学校のこと(36頁)以外にも言及された様々な問題において、時代と社会に対する著者の眼差しの厳しさだけでなく、困難と苦しみの中で、なお小さな力を持ち寄り互いに望みをもって生きようとする人たちへの優しさが、とても印象的です(116、147頁他)。
 興味深かった比喩があります。ローマ書第11章、イスラエルのつまずきが異邦人への福音の道を開いたことを説明するところで、著者は、地元の迫川(はさまがわ)の上流につくられた農業用のダムのこと(軽辺川)を例に用いています。聖書をよく読み、生活やその環境のことをよく考えていなければ、こうしたつながりの発見はなかなかできないものです。
 最後に『神の恵みの水路』という美しい書名にも触れておきたいと思います。著者のいうように神の義、福音という水路はわれわれのもとにすでに通っています。われわれもそのほとりに植えられて成長したい(序章、他)。そんな思いにさせる素晴らしい一冊でした。イラストも、似顔絵デッサンも、本書をよく引き立てています。

神の恵みの水路
現代に問いかける「ローマの信徒への手紙」

佐々木栄悦著
B6判・152頁・1430円(税込)・新教出版社
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書き手
佐藤司郎

さとう・しろう=日本基督教団仙台北三番丁教会牧師

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