神の愛に満たされて ケズィック・コンベンション説教集2020

キリスト者の「生」の在り方を問いかける
〈評者〉濱 和弘

神の愛に満たされて ケズィック・コンベンション説教集2020
大井 満責任編集
四六判・168頁・本体1300円+ 税・ヨベル
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 小さな泉から流れ出た水が、長い道のりを滔々と流れ大河となる。その大河は肥沃な地を生み、そこに文明を築く。私たちはそのことを歴史の営みの中に知る。
 ケズィック・コンベンション(以下ケズィック)もまた、この歴史の営みに似ている。一八七五年にイングランド北西の小さな町ケズィックに始まった集会が、一四六年の歳月を経て、今日、日本を含め世界各国で開催される大河となり、キリスト者の霊性を養う肥沃な地となっている。
 本書は、その日本でのケズィックの二〇二〇年版説教集である。全体の構成は、バイブルリーディングと呼ばれるキリスト者の生の在り方を問う説教と、キリスト者の霊性を養うための聖会説教、そして教職向け、信徒向けのセミナーや女性集会、ユース集会での説教が収められている。
 説教者は外国人・日本人説教者を含め複数に渡るが、あえてここではその名を挙げない。説教する人間に価値があるのではなく、説教そのものの内容に価値があるからである。本書には、その珠玉の説教が連なっている。
 特に、今回のケズィックは、近年に日本で開催されたケズィックの中でも、特筆すべきものがある。というのも、今回のバイブルリーディングは、「神の国」からキリスト者の生の在り方を問い、考えているからである。
 もとより、ケズィックの説教は、キリスト者個人の霊性を養い、個人の変革を図り、敬虔な生き方に導くことに中心を置く。しかし、今回の説教は、神の国の視点から語ることで、さらに強く、神の国の民として、この世の中で具体的に生きることへの自覚を促すものである。
 とかく神の国は、天国という死後行く世界として彼岸的に捉えられがちである。しかし、神の国はキリスト者の心を支配し、この世に神の支配が具体的に展開すべき此岸的なものでもある。そのことを、説教者は山上の垂訓から神の義と寛容とに焦点を当てながら力強く語り、私たちの生き方を問い、私たちをこの世へと押し出していく。それは、この世にあって、神に従って生きていく生である。
 もっとも、キリスト者の生き方のみが問われるだけならば、それは少々辛い。誰しもが、神に喜ばれる生を生きたいと思うが、それは簡単なことではないからだ。失敗や失望もある。だから、そこには慰めが必要であり、癒しが必要であり、神を信頼することへの励ましが必要である。私たちは、弱さを持った存在なのだ。
 本書では、その役割を聖会説教や各セミナーの説教が果たしている。そこでは、神の赦しが語られ、神の愛が語られ、読み手を包み込んでゆく。それこそ、心を神が支配しているのではなく、自分の思いや願いに支配されている人間の現実を示しつつも、そのような私たちを赦し、幼子を教えるように教え導き、励ましながら私たちをキリストの弟子として育まれる神の愛が語られていくのである。
 キリスト者は、キリストの証人としてこの世に押し出されて行くと同時に、この世から引き出され、慰め癒されなければならない存在でもある。本書は、一つの書として、この二つの対極を語る極めてバランスが取れた説教集であり、キリストの真実に溢れた肥沃な霊の糧の地である。

書き手
濱和弘

はま・かずひろ=日本ホーリネス教団小金井福音キリスト教会牧師

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