【出会い・本・人】「見えない線」を求めて

大学生のころ、仲間と共にヴァイオリン職人の方の工房に入り浸った。出入りする演奏家のお話をうかがったり、お弟子さんが作った楽器の音出しで粗い木の音が艶やかな楽器の音へと変化するのに驚かされたりした。あるとき、昔の名器の製図を見せていただいた。美しい楽器の曲線は、楽器の外側に引かれた直線の黄金比分割により浮かび上がっていた。「美しい楽器には、それを支える見えない線がある」。後年、美術館で名画を前に音声ガイドに従って点と点を結ぶ線を思い描いていたところ、平面に見えていた絵画が急に立体的に躍動し、驚いた。
信仰においても、「見えない線」が与えられてきた。
大学生のころ初めて聖書を読んで、旧約聖書と新約聖書のつながりがまったくわからなかった。あるとき、囚われのイスラエルを憐れみ”私は下っていき救い出す”と言われモーセを遣わされた出エジプト記三章の神が、ルカ二章で御子を低きに遣わされた恵みと憐れみの神と同じ神であると知らされ、私にとって初めて旧約聖書と新約聖書のあいだにがっちりと線が引
かれた。その後は読むごとに旧約・新約聖書のあいだに新たな線が引かれ、もはや両者は離れることなく、多くの線で結び合わされていった。その後、神学を学ぶ機会を与えられ、ルター、カルヴァンから始まり神学書を読み進むなかで、罪について、神の救いの歴史について、聖書を貫く骨太の線、細く遠くにつながる線が引かれてきた。一度に引かれる線は一本だけでも、そこには喜びがある。聖書の神の愛を少しずつ教えられてきた。
テキストが引いて見せてくれる線はそれだけではない。人が騒ぎ私の心も空しく騒ぎ立つとき、先人の信仰の言葉が大切な軸をもう一度教えてくれる。「私は何ものなのか?…私が何ものであれ、あなたは私をご存じだ。…おお神よ!」(D・ボンヘッファー獄中詩、宮田光雄訳)聖書の描く垂直の線に命生かされた人々の言葉が、私をもその線の下に引き入れてくれるのだ。

書き手
島田由紀

しまだ・ゆき=青山学院大学宗教主任・准教授

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