香港の民主化運動と信教の自由

香港の宗教者たちの生の声を聞く
〈評者〉山口陽一

香港の民主化運動と信教の自由
松谷曄介編訳
A5判・192頁・定価1980円(税込)・教文館
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 中国返還から二三年、香港の「一国二制度」が急変している。二〇一四年の雨傘運動、二〇一九年には「逃亡犯条例」改正が市民の反対デモで撤回された。こうした民主化運動を制圧すべく、二〇二〇年六月、中国全人代は香港国家安全維持法を可決した。
 序章では、本書の翻訳と編集を担った松谷曄介氏が、香港のキリスト教会の状況を丁寧に解説する。同氏は雨傘運動の時期に香港中文大学・崇基神学院で在外研究をした経験があり、そこで育まれた交流と彼らとの「祈りの約束」が本書を生み出した。
 第1章は、二〇二〇年五月に結成された「香港牧師ネットワーク」による「香港2020福音宣言」の全文と四つの関係文書、同年七月の祈禱文「深淵から呼び求める七日間の祈り」である。楊建強牧師と王少勇牧師の対談「『逃亡犯条例』改正反対運動から『香港牧師ネットワーク』結成まで」では、「福音宣言」がローザンヌ誓約を継承して福音を解釈し、全包括的な信仰の筋道を描き出すことを願って起草されたことが語られ、その臨場感に引き込まれる。朝岡勝牧師は、「福音宣言」がバルメン宣言とローザンヌ誓約に共通する福音理解に立って祈りと行動を促す宣言であると解説する。
 第2章は理論。香港政治の専門家である倉田徹教授が、「民主はないが、自由はある」香港の「信教の自由」が揺るがされている状況を解説し、香港のプロテスタントを代表する袁天佑牧師が、政治問題に直面して苦慮する香港の保守的教会の現状を開示する。中国キリスト教史の専門家である邢福増教授は、香港国家安全維持法の全体主義を「噓の生」とし、これに「真実の生」を対峙させる。第3章は証言。雨傘運動をリードして香港大学を解雇された戴耀廷副教授は、信仰者として「正義」を求めた「市民的不服従」が雨傘運動に繋がり、彼の人生を変えたことを語る。朱耀明牧師の「鐘を鳴らす者の言」は、公衆妨害共謀罪に問われた法廷での最終陳述として語られた「説教」である。また陳日君枢機卿は中国政府に理解を示すバチカンとの闘いを証言する。
 第4章は背景。中国のキリスト教弾圧を語る三つの文書が収録されている。二〇一八年の逮捕後に公表された秋雨之福聖約教会王怡牧師の「私の声明─信仰的不服従」。邢福増教授の「暗闇の時代に命がけで道を証しする伝道者・王怡牧師」は、香港の教会が王怡牧師と共に歩むべきことを訴える。
 平野克己牧師が「キリスト者として生きるとは、壁や国境によって閉ざされた小さな家ではなく、この世界全体を覆う大きな家に生きることなのです」と推薦の言葉を寄せているように、香港における信仰の覚醒に世界の教会が注目し、祈りを合わせている。日本の教会は、政治の分野において、抵抗権(信仰的不服従)を含むディアコニアを学ばされる。また教会の若者たちにとって、「バルメン宣言」と「ローザンヌ誓約」を継承する「香港2020福音宣言」が一つの道しるべとなることを願う。

書き手
山口陽一

やまぐち・よういち=東京基督教大学学長

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