ひとを理解する なぜ、ひとは、関係を熱望するのか

心理カウンセリングに有効なアプローチを提供
〈評者〉岡村直樹

ひとを理解する
なぜ、ひとは、関係を熱望するのか

ラリー・クラブ著
川島祥子訳
A5判変型・302頁・本体1800円+ 税・ヨベル
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 「カウンセリングのアプローチが聖書的であるというのはどういう意味であろうか。」心理的な課題で悩む人の多い現代社会において、これはキリスト教会が避けて通ることのできない非常に重要な神学的問いである。本書は、心理学者でカウンセラーでもあるLarry Crabbによって1987年に出版され、2013年に改定されたUnderstanding Peopleの翻訳書である。
 Crabbはまず、キリスト教的であると言われるカウンセリングの方法の多様性と、そこにある曖昧さを指摘する。聖書に反しなければ聖書的なのか。または聖書的な要素を少しでも盛り込めば、それは聖書的なカウンセリングであると言えるのかと問いかける。加えて心理的問題も含む人間のすべての課題を、聖書の釈義のみで解決することができるという教えに対しても疑問を呈する。Crabb は聖書釈義の価値を認めつつも、そのようなアプローチは複雑で大きな苦しみを伴う心理的な課題に対して無力であることが多いと主張する。なぜなら釈義の正確さの追求には、煩わしい問題を避ける傾向があり、なかなか治癒に向かわない鬱病者や、自己嫌悪感にさいなまれる拒食症者に対して、単純で原則的な答えしか提示できず、結局何も解決しないというサイクルが繰り返されてきたと語る。
 本書の核心を成すのは、「聖書は誤りのない神の言葉である」と告白する福音主義の神学の立場から展開される神学的人間論である。聖書は心理カウンセラーに対し、十分で適切な枠組みを提供しており、カウンセリングモデルは、聖書と相反しないだけではなく、聖書から出現し、聖書と一致していなくてはならないとCrabb は主張する。人間は神の姿に創造されており、他者との関係性を求める存在である。人間らしく生きる上で、他者との関係性を築くことは必要不可欠であるが、罪によって歪められた人間にとっては、同時にそれが心の痛みや苦しみを生む原因となる。心理的課題の根本的な解決は、悔い改めを通して得る、キリストとの関係性の回復にある。しかし「罪を悔い改めなさい」「キリストを信じなさい」と語ることで、またそれを確信することで、人々の心の問題が消失するというわけではない。聖書の原則に立って、もう一度自らの人生の旅路を、そして自らの心の奥底を正直に深く見つめ直す作業が必要不可欠であり、神は人間に、そのような能力を与えてくださっている。しかし人は生まれながらにして罪人であり、わからない事柄を避けて通り、安易な解決の方法を求めてしまう。それはクリスチャンであっても同様である。したがってクリスチャン・カウンセラーの役割とは、カウンセリングの対象者が自らの人生の旅路を、そして自らの心の奥底を正直に深く見つめ直す作業に寄り添うことである。心の奥底を深く見つめ直すとは、キリストに信頼し、よりキリストに近づこうとする作業でもある。
 本書はクリスチャンの心理カウンセリングにおいて聖書の言葉を重要視する者に対し、ひとつの有効なアプローチを提供するものである。読者には、クリスチャン人口の多い米国で書かれた本書の方法論を、未信者を対象とする日本でのミニストリーの中でどう用いるのかという問いを念頭に読むことを勧めたい。またCrabbは、「器質的な機能的障碍」を例外として扱うが、心理的問題における精神的要因と物質的要因の境界線の引き方の困難さを改めて思わされた。

書き手
岡村直樹

おかむら・なおき= 東京基督教大学大学院神学研究科教授

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